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「いったい誰が、こんな……」
あまりにも残酷で、酷すぎた。
顔が見えるもほんの少しで、ほとんど黒い呪いの靄で覆われた少女。
ここに横たわっていたということは、捨てられたということだろう。
捨てたのも、呪った本人であろう。
その名も知らぬ誰かの行いの残酷さとずるさにイルドの目が怒りで燃えた。
殺したいほどこの子が憎かったのだろう。
それは呪いから伝わってくる。
だが、自分で殺すことは出来なかった。
だから呪いをかけたのだろう。
それでも、目の前で死ぬのは見たくなかった。
かといって、山の奥に捨てたとなれば殺したと同じ。
だから。
生きる可能性のある国の入口に捨てたのだろう。
なんて、ひどくて、残酷で。
自分勝手なことを。
「痛い……やだ……おかあ……さん」
少女の呻きにイルドは言葉を失う。
間違いなく、彼女は母親の名を呟いた。
「呪いをかけたのは……母親?」
イルドにも息子が一人いる。
なので育児の大変さと言うものは知っている。
だが。
死ぬよりも苦しい呪いをかけるほど憎いと思ったことなんてない。
「これが母親の行い……? そんな……でもそれなら……」
辻褄があってしまう。
どうしても自らの手で殺せなかった。
けれど憎くて仕方なかった。
でも目の前で死ぬのは見たくなかった。
だから助かるかもしれない可能性にかけて……
「勝手な……」
イルドは少女を抱きしめた。
黒い靄がイルドを蝕み全身に激痛が走る。
「死なせるものか。絶対に、死なせるものか!」
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