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教会
イルドは少女を抱えるとそのまま自分の家へと帰った。
夫は仕事で忙しくほとんど家にいないのでとくに説明の必要はない。
家のことを任せている2人の家政婦に関しても、イルドに対して絶対的な忠誠を誓ってくれているので驚きはすれどイルドのことばに耳をしっかり傾けてくれるはずだ。
問題は、10歳になる息子だ。
年下で、しかも、異性。
けどそれ以上の問題が、今回出かける前にした約束だ。
「……さて、どうなるやら」
イルドはため息交じりに家の入口を開けた。
「ただいま」
「おかえりなさいませ、イルド様」
イルドが帰ってくるのをまるでわかっていたかのようにメイド姿の女性が出迎えお辞儀をした。
前世は貴族だったのではないかと思わせるほどの気品を漂わせる彼女は、黒髪を全て上に束ね上げ表情がよく見えた。
顔を上げるとイルドの手元を見て一瞬驚いたように目を丸めたが、すぐに表情を引き締めると「お客様用の寝室に寝かせますか?」と瞬時に状況を把握しその場で一番適切な言葉をかけた。
物わかりのいい彼女にイルドは微笑み「いえ、私の部屋に寝かせたいので布団を持ってきて頂戴」と答えた。
メイドは「かしこまりました」と綺麗に頭を下げるとすぐさま行動に移った。
と、メイドが去ると同時くらいにパタパタと小さな足音がイルドの元へと向かってきた。
「坊ちゃま、そんなに走ってはこけてしまいますよ!」
「大丈夫だって。母さんおかえりー!」
走れない年老いたメイドの静止の声を聞かず走ってきた少年は笑顔でイルドに駆け寄ってきた。
が、イルドの手元を見ると足を止め固まった。
その大きな目がさらにまん丸と見開かれ、イルドを見、またその手元を見た。
「母さん……え、誘拐したの?」
「人聞きが悪いねぇ。拾ったんだよ」
「……落とし物?」
「うん、まぁ、そういうことにしておこうか」
首を傾げ言う息子にイルドは苦笑し、自分の部屋へと足を向けた。
その横に並びついてくる息子は、歩きながら眠っている少女をじっと観察した。
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