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イルドは部屋に入ると穏やかな表情で眠る少女をコナーが敷いてくれた布団にそっと寝かせた。
と、前触れもなく少女がパチリと目を開けた。
それは本当に突然でイルドは吃驚したが、すぐに微笑みを浮かべると「調子はどうだい?」と声をかけた。
初対面の者には笑顔が一番。
それが、警戒心を解く一番の魔法。
そのことをよく心得ているイルドは無意識に優しさを含んだ微笑みを浮かべていた。
少女は最初怯えた様に起き上がり辺りを見回したが、もう一度イルドを見るとどこか安堵したような表情を浮かべた。
「ありがとう……」
そう言って、少女はぺこりと頭を下げた。
ここはどこと混乱するかと思いきや、最初に出たのは感謝の言葉。
「……覚えてるのかい?」
イルドは思わず、そう尋ねた。
4歳は、幼い。
個人差もあるが、人によっては言葉も拙く感情が激しく動きすぐ泣いたり喚いたりとするのが普通だ。
けれど彼女はあまりにも落ち着いている。
子どもの幼さと言うものが見当たらないほどに。
精神年齢は、もしかしたら自分の息子のタイタンと同じくらいかもしれない様子が伺えた。
イルドは呪いの憎悪に強く混じっていた嫉妬の念を思い出す。
ただの予想には過ぎないが。
この呪いをかけた人は、少女の優れた能力と天才的な才能に身がよじれるほど嫉妬したのではないだろうか?
少女はこくんと首を縦に振ると「全部、覚えてる」と答えた。
そこへ「あら、お目覚めになられましたか?」とソギアが部屋に入ってきた。
少女はソギアを見つめた。
その黒い瞳は、全てを見透かすように真っすぐ見つめ、少女は「こんにちは」と頭を下げた。
「あら、あらあらあらまぁ……こんにちは」
ソギアは少女の礼儀正しさに目を丸くして驚いたが、すぐににこやかな笑顔と共に挨拶を返した。
イルドは少女の様子に驚きを隠せず、「瞳……」と思わず呟いていた。
「あ、はい。私、瞳魔法が使えます」
イルドの呟きに気づき少女が答えた。
”瞳魔法”
修行では手に入らない、選ばれた者が生まれ持って手に入れるスキル。
だが、扱うには膨大な魔力と優れた知力を要するスキル。
それを4歳の少女が使いこなしていた。
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