カッパの味は如何ほどに?

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 お風呂から上がってみると、私の部屋で見慣れないペンダントを見つけた。星の形をした金色のペンダントだ。本棚の空きスペースにひょっこりと置いてある。こんなもの買った覚えがない。  お父さんかお母さんが置いたのだろうか。 「ただいま」  噂をすると影とやらで、お父さんとお母さんが帰ってきた。  時刻は六時過ぎ。予想していたよりも少し早い。  お父さんとお母さんは都内までお出かけに行っていたのだ。昼は高級料理屋で食べ、そのあとぶらぶらとお店を見て回ったのだろう。  二人が食事をした高級料理屋はとてもおいしいと評判らしく、私も行きたかったのだけど学校があったので辞退させてもらったのだ。 「そんなの休めばいいじゃない」とお母さんは言ってくれたけど、テスト前ということもあって学校を休みたくなかった。それに、たまにはお母さんとお父さんが二人っきりでのんびりしてきて欲しかった。 「いやあ、おいしかったね」  とお父さんが笑う。くたびれたようにソファーによりかかり、リモコンでテレビをつける。 「ほんとね」  お母さんもつられて笑う。休めばいいのに、台所で夕飯の準備をしていた。 「最高だったな。あんなうまいもん食ったことない」  お父さんがさらにつけ加える。 「へー」  喉がかわいたので、私は冷蔵庫からミルクを取り出してコップに注いだ。 「そんなよかったんだ」 「ああ、本当にうまかった。特にうまかったのはカッパだな」 「そうねえ、カッパはおいしかったわね。前菜のしびれ草もおいしかったけど」 「ああうまかったな」 「……ゴホ!」  神様私に少しの時間を与えてください! 「どうした祥子、牛乳を三メートルも吹き出したりして。おかげでニュースが見えないぞ」 「……お、お父さん。な、なにカッパって」 「ああ川とかに住んでる緑色の妖怪でな、よく人を襲ったりする――」 「そんな説明はいらない! なにカッパって。カッパを食べたの!」 「そうだが」 「そんな当たり前みたいな感じで言わないで! どうやって食べるというのよ」 「どうやって、て……襲いかかるカッパをだな、右ストレートでノックアウトさせて」 「生きたままだったの! もうお父さん酔っぱらってるんでしょ。ねえお母さんそんなの嘘だよね」 「あのときは感動したわ」 「お母さんも!」 「かっこよかった。ほんとしびれたわ」 「それ前菜のしびれ草のせいだよ!」 「ところで祥子、ここにかけてあったコートは?」 「え、知らないけど」 「困ったわ。せっかく不倫相手から買ってもらったやつなのに」 「不倫相手!? ちょ、ちょっとお母さん急になにを。お父さん今の聞いた?」 「ああ義輝くんのことだろ」  こともなげにお父さんが言った。 「承知済みなの! お父さん冷静になって浮気だよ」 「いいか洋子……」  お父さんが改まったように私の顔を見た。 「人のことは悪くいっちゃ駄目なんだぞ。それに義輝くんはいいヤツなんだ。あんないいヤツはいない」 「頭のネジ何本落としてるの!? 浮気相手だよ!」 「義輝くんはさ、幸福を売ってくれるんだよ」 「幸福?」 「そう幸福。誰もが望むものを金色のペンダントという携帯しやすいものにして、しかもたったの二十万円で」 「それ絶対にぼったくりだよ! 見事にカモられているよ!」 「大丈夫よ」 「お母さん……」 「ちゃんとあなたのぶんも買ってあるから」 「え? あれかあ――!」
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