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第2話あとがき
今回は作中で使われたマスケット銃についてちょっと補足。
ライフリングとは弾丸を真っ直ぐ飛ばすため、銃身の内側に刻まれた螺旋状の溝のことです。これに沿って銃身の中を進むことで弾丸にスクリュー回転が加わり、直進性が増して命中率も上がるというわけです。
マスケット銃とは銃身の内側にそういう加工をする技術がまだなかった頃のもので、弾丸は筒状の銃身内をただ滑っていくだけになります。(ゆえに滑腔式とも呼ばれます)
また、マスケット銃は使う弾丸も鉛を丸く固めただけの単純なものです。ライフル弾のような座薬型、つまり空気を切り裂いて進む形状ではないので命中率は低く、貫通力でも現代の弾丸より劣ります。
おまけに弾と火薬を銃口から詰め込み、一発撃つたびにまた詰めなおさなければいけないという面倒くさい構造なので、連発ができないという弱点もあります。
上記の内容を見るといいとこなしのように思われるマスケット銃ですが、作中でシスター・アリシアがこのような古い銃を使うのにはちゃんと理由があります。
吸血鬼を扱った作品の多くで、吸血鬼は銀に弱いという設定になっています。(この作品内では吸血鬼の眷属である屍鬼にも効きます)銀製のものに触れると皮膚が焼けただれたり、銀メッキした刃物でつけられた傷は再生しない(人間が傷ついたときと同じように再生力が落ちる)というものですが……。
では、銀でコーティングした弾丸で吸血鬼に大きなダメージを与えるにはどうすればいいでしょう?
答えは簡単、弾丸を吸血鬼の体内に留まらせることです。そのためには貫通力の高い現代の銃よりも、むしろ威力の弱いマスケット銃のほうが好都合というわけですね。
現代の弾丸でも、わざと先端を潰れやすく加工することで貫通力を落としたホローポイント弾というものが存在します。命中した瞬間に変形し、体内で軌道を変えながらあちこちを傷つけるというえげつないものです。
しかしシスター・アリシアたち不死者狩りはあえてこれを使わず、自分たちで鉛玉に銀のコーティングを施した弾丸を手作りしています。
その理由は二つありますが、マスケット用の弾丸は熔かした鉛と鋳型さえあれば簡単に作れるので、日本のように銃規制の厳しい国や旅先でも弾が補給しやすいのがまず一つ。
もう一つは精密に作られた既製品の弾頭に素人が手を加えると、信頼性や安全性の面でリスクが高くなるという観点からです。
ちなみに銃を撃つシーンで“硝煙の臭いが鼻をつく”という表現がよく用いられますが、現代の弾丸に使われている火薬ではこのような臭いはしないそうです。
むしろ今回登場したマスケット銃で使われる黒色火薬こそ文字どおり『硝石』が含まれているため、花火の煙と同じく硝煙の臭いがします。
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