3:必然じゃなく恋

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*  電車に揺られる間も、これまでは幸せな時間だった。  悩んだ結果、当初の予定通り長屋さんに会いに行く事にした。  今はただ鬱々と気分は重い。俺は長屋さんに断罪されるべく、現場最寄りのコンビニでスタンバイする。  幸いここは俺の住むアパートの近所。いつもの下手な言い訳も必要ない。  ついでに牛乳と卵を買い、立ち読みしながら長屋さんを待った。この期に及んで、ささやかなこの小細工。  だがコンビニの前にバンが停まったのに気付いても、俺はいつものように顔を上げられなかった。 「お疲れ様、堤くん。……ちょっと聞いても良い?」  ホラ、来た。  話し掛けるのはいつも俺から。  だが、今日は雑誌から目を離せないでいる俺に気付いた長屋さんが真っ直ぐにやって来た。 「違ったらゴメン。あのさ、堤君もしかして今コールセンターでバイトしてない?」  雑誌からしつこく離れない目線をのろのろ動かし、長屋さんの顔色を観察する。  そこからは困惑や嫌悪は見受けられない……ような気がする。ただ疑問に思っているだけのような、そんなのは希望的観測に過ぎないだろうか?  ギシギシと音が鳴りそうなほどぎこちなく、俺は雑誌を置いて長屋さんに向き直った。 「実は……ハイ」 「ってことは、もしかして今日の電話は……」 「……ハイ」 「いつから?」 「最近です。先月くらいから」  予想外に、長屋さんはへにゃりと笑った。  俺に恋心を自覚させた、あの笑顔だ。 「何だ言ってくれよ~!それにしてもすっごい偶然だなぁ」  下がった目尻が最高に可愛い。  その笑顔を見た途端、どっと力が抜ける。思いのほか緊張していたらしい。 「実はあんまり偶然でもないんです。コールセンターの募集を見た時、長屋さんが働いてる会社だな、って目に留まったんです。だから、偶然ってわけじゃなくて……」  長屋さんは「えっ!?」と驚き、なぜか頬を染めた。  しかし「そか」と独り言のように呟き、それきり黙り込んでしまった。若干の気まずさを感じつつ、ストーカーがバレているわけでも、引かれているわけではなさそうなことに俺は安堵する。 「あの、さ……良かったら連絡先聞いても良い?」 「え」 「あ、嫌だったら無理にとは言わないんだけど。これも何かの縁だし。前からもっと堤君とゆっくり話してみたいな、と思ってたし……今度飲みに行こうよ。その、迷惑じゃなければ」  これは更なる予想外だった。  俺は目を瞬かせた。信じられない。 「ぜっ、全然!是非行きましょう! 何なら今からでも!」  長屋さんは一瞬きょとんとして、それから笑った。 「今から事務所戻って上げなきゃいけない書類があるから……そうだな、1時間後はどうかな」 「えっ、良いんですか?」 「勿論」    長屋さんは目尻を下げて、優しく優しく微笑んだ。
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