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4:恋じゃなく相思相愛
長屋さんと、時々飲みに行く関係になった。
始めの数回は、近場の適当な居酒屋へ行った。
「学生に出させるわけないでしょ」
と、長屋さんは毎回奢ってくれる。
それが申し訳ないやら情けないやらで、思い切って「次は俺ン家にしません? いつものお礼に俺が飯作るんで」と誘ったのは先月の事。
料理が得意なわけではないが、少ない仕送りとバイト代だけで三年間一人暮らししてきたのは伊達じゃない。
一通りのことは自分で出来たし、カフェバーのバイト先から見よう見まねで盗んだ盛り付けの技も駆使した。
大抵の女子が歓声を上げてくれるのは実証済だが、俺以上に料理をしないらしい長屋さんも、簡単な料理でこちらが恐縮するほど喜んでくれる。
仕事を終わりに、必ず寄るコンビニで買うコーヒーと煙草を夕飯の代わりだなんて言う人だ。不摂生にもほどがある。俺が何とかしてあげたいと思ってしまう。
家が2駅しか離れていない事は最近知った。
互いの家を行き来するようになり、生唾を飲む場面も増えた。
しかしへにゃりと警戒心なく笑う彼を前にしちゃ、伸びかけた手も引っ込めざるを得ない――筈だった。
*
ソファの上で目が覚めた。
いつものように俺の部屋で家飲みをしていたはずだが、空の缶も汚れた皿もそのままに、俺はいつの間にか寝落ちていたらしい。
目を開いた瞬間、目の前に長屋さんの顔があった。
「あっ」
と長屋さんはパッと赤くなって慌てて飛び退いた。
真っ赤になって狼狽えているらしい長屋さんを見ても、寝ぼけた頭ではいまいちピンとこない。「あの……」とか「えっと……」を繰り返ししどろもどろな様子を眺めていたら、段々意識がハッキリとしてきた。
「今、キスしようとしました?」
長屋さんが真っ赤なままで、ぎくりとした。
「長屋さん、もしかして俺の事好き?」
「え」
「違うの? 好きじゃないのにキスしようとしたの?」
「ち、違っ」
狼狽える彼が可愛かった。
まだ半分夢のような心地で長屋さんに迫る。
「俺は好きですよ……桔平さん」
ずっと声に出して呼びたかった、長屋さんの名前を初めて呼んでみる。
「桔平さん、ちゃんと言って下さい」
「す、好き……」
桔平さんの告白が「我慢しなくていいよ」の合図だと受け取った。
押し倒してキスをすると、体はガチガチに固くなって縮こまって、もう可哀想なほどだ。こんなに可愛い人が存在するなんて信じられない。
「可愛い。さっきは自分からしようとしていたのに」
「さ、さっきは! 堤君が寝てると思ったから……」
「寝込み襲うなんてエッチ。ね、今度は俺が襲って良い? 良いよね? 優しくするから」
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