数えることのない一段

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 ただ、「百段」と呼ばれていることには少しばかり違和感を持っていた。階段の数を数えながら上ったことは何度もあるのだけれど、どうしても九十九段にしかならない。たまに九十八段になってしまったり、途中で数えるのを忘れたりすることもあったので、自分がぼうっとしているだけだろう、次はしっかり数えてみようと思ったりすることを繰り返しながら、百段まで数えられたためしはないのだった。 高校を卒業して町を出る時、もうぼんやりした子供のままではいられないのだと、子供の頃からずっと隠れ家になってくれた神社跡にお別れを言うつもりで、しっかりとした気持ちで石段を数えながら上った。 やはり九十九しか数えられなかった。 約束された架空の一段、見ることのできない一段の存在……それとも不在?を、思った。 その一段の中に隠れて、そこから出て行きたくないと思った。
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