第二章 青空は満開の桜の上 ニ

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 しかし、どこをどう誤ったら、こんな現象が出るのであろうか。俺の姿はまるで幼児で、手や足や、歯の生え具合からすると、まだ一歳にもなっていない。 「あと、誰がいるかな……しょうがない、本村に電話するか」  本村には、澤田も連絡しなかったらしい。俺が澤田の携帯電話をいじっていると、澤田がじっと俺を見ていた。 「やはり、私が引き取りたいですけどね……」  澤田はシェルターに入って助かったが、俺を持っていて、あれこれ事情聴取されたらしい。そこで、この赤ん坊を俺だと主張して、精神鑑定まで受けさせられていた。でも、遺伝子検査で本人だと判明すると、本部長の相馬が幾度も病室を訪ねて来ては、対応をどうするのか悩んでいたらしい。 「相馬部長が?」 『そうだよ。俺も夏目の姿を見て絶句したよ。それに、邪馬にも気付かれてね……』  俺は本村に電話していたのを、すっかり忘れていたので、返事がきたので驚いた。本村は見舞いに来ていて、俺の姿も知っていたようだ。 「邪馬がどうしたの?」  俺と本村、邪馬は同じ学校の出身であった。 『邪馬は、俺の子供だ。持ち帰ると言って、騒動を起こした……』  そこで、相馬と本村が話し合い、暫く本村が引き受けるという約束をしたという。 『まあ、俺も刑事だからね。出勤の途中で、公安に置いてゆくよ』  妻に拒否されたこの姿では、家にも帰れない。暫くは、本村の世話になるしかない。 「本村、退院してそっちに向かうよ。今晩は、泊めてね」  ここから出るには、まず退院手続きをしなくてはいけないだろう。俺が立ち上がろうとすると、バランスが悪くて、ベッドから落ちそうになった。どうも、頭が重すぎて、転びやすくなっているらしい。 「まだ、歩くのは早いのかもしれません」  ベッドから落ちそうになって、澤田が押さえてくれたが、それでは移動が出来ない。 「ハイハイはできるから、床に降ろしてください」  この身体は何か月なのであろうか。つかまれば立ち上がる事はできるので、生まれてから半年は過ぎているだろう。こんな時になって、子育てを妻に任せっきりであったのが悔やまれる。  床に降りると、ハイハイで壁まで移動し、壁につかまると立ち上がった。
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