第三章 青空は満開の桜の上 三

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「泣かないでください。目に涙が溜まると目が溶けてしまいそうで、不安になります」  それは泣いているのではなく、眠かっただけだ。この身体は、少し動くとかなり眠くなる。 「……キスしないでください」 「ダメです。できません。こんなに可愛い生き物に、キスしないなんて、俺が生きている意味を失います!」  そこまで、思い込むものなのか。力強い回答に、俺の方がひるんでしまった。 「してもいいって言うまで、しないで……」  俺が眠気を堪えて西園寺を見ていると、西園寺が真顔になってから、にへらと笑って俺を再度抱き締めた。 「お願いですか?」 「お願いです」  すると、西園寺はキスはしなかったが、頬擦りしていた。 「これが俺の上司ですか……俺、もう、限界まで働いてしまいますよ!!!頑張ったら、給料アップよりも、キスさせてください!!!」  俺は逆に、西園寺が部下ときいて、不安になってしまった。  西園寺は、相馬から話を聞き、俺が幼児化しているのを笑いにきたらしい。でも、車の中で弱っているのを見て、気が変わったという。 「笑っていいよ。俺も、自分でもおかしいと思うからね……」  こんな姿になるとは、夢にも思わなかった。今後の事を考えなくてはいけないが、まだ頭の中が真っ白であった。 「夏目室長が笑ってください……怒りん坊で、それも可愛いですが、笑顔が見たいですよ」  そういう意味のおかしいではない。自分でも変だと思っているということだ。 「でも、西園寺。助かった。ありがとう」  水分が無かったら、死んでしまったかもしれない。この生き物は、かなり弱い面を持っている。  西園寺は本村に電話を掛けると、俺を近くの公園で遊ばせておくと説明していた。それと、服や靴などを購入してもいいかと聞いていて、本村は金を渡すと言ったが、西園寺は拒否していた。 「本村、俺は自分で支払えるよ」  今、現金は持っていないが、それなりの給料を貰っていたので、子供一人くらい増えても養えるだろう。 「……夏目室長、離婚するのでしょ?財産と給料は使えないかもしれませんよ」  もしかして、給料も貯金も、妻であった美紗江に、押さえられてしまっているのだろうか。 「俺、両親もいないし、妹には迷惑かけられないし……どうしよう」  又、孤児院などに入れられたくない。そうしたら、今度も脱走して、地下社会に行くしかない。
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