第三章 青空は満開の桜の上 三

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「そうか……潜入捜査に入るかな……」  潜入捜査をしていれば、公安の給料を美紗江に取られていても、潜入先で稼げばいい。公務員はバイト禁止だが、潜入捜査の場合は、バイトにはカウントされない。  俺が考え込んでいると、西園寺はバイクの荷台に俺を入れて、移動しようとしていた。赤ン坊を荷物と一緒に扱うとは、西園寺の常識も普通ではない。でも、文句を言おうとすると、走り出していた。  バイクはかなり揺れていて、俺は荷物と一緒にあちこちぶつかってしまった。やっと止まったと思って、出ようとしたが、鍵がかかっていた。じっと鍵が開くのを待っていると、外で話声が聞こえていた。 「……取引先は、マルカワ産業の専務だな」  これは何かの取引をしているらしい。そうすると、西園寺は俺を荷台に入れたまま、どこかに行ってしまったということだ。それはそれで、酷いと思うが、取引の内容が聞こえるのはラッキーであった。 「トウキョーブラックオアシス……」  取引されるのは薬のようだが、禁止薬物ではなく、万能薬の方だった。万能薬ならば、正々堂々と取引すればいいのだが、売る方は売人なので表に出られないらしい。  万能薬を使用すれば、俺も元の姿に戻れるのであろうか。どこで、売っているのか聞き耳を立てていたが、売人らしき声はどこかに行ってしまった。  じっと声を探していると、天井をノックする音が聞こえてきた。 「夏目室長、ブツは何でしたか?」  やっと天井の蓋を開けて貰ったので出ようとすると、俺は西園寺に持ち上げられていた。 「万能薬の方だね。相手は、マルカワ産業の専務だ。西園寺、盗聴器を仕掛けていたでしょ?俺に聞くまでもないよね」 「気付いていましたか……万能薬も厄介なのですよ」  ここは、デパートの地下駐車場で、西園寺は買い物袋を持っていた。俺が袋を見ていると、西園寺が俺に頬擦りしようとする。 「西園寺、何を購入したの?」  重そうに持っているので、服ではないだろう。 「これは、本村さんに頼まれて、離乳食を購入しました」 「離乳食?」  俺の食事ならば、丁重にお断りしたい。離乳食は味が薄いので、食べたくない。食べるのならば、焼き魚と酒がいい。 「本村さんは、夏目室長は乳製品が大嫌いだから、離乳食だと言っていました」  しかし、袋の中にミルクが見えている。 「西園寺、干物の魚とスルメとピーナッツを買ってくれ。ええと、妻に内緒の口座があるから、金を降ろしてくる」  生体認証の類は、この身体でも平気だろうか。
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