第三章 青空は満開の桜の上 三

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「大変だな……」 「そうだよね。俺も、家を出てから長いから、こんなに干渉されるとは思わなかった」  本村の車に乗り込むと、店員がチャイルドシートを取り付けた後であった。助手席に付けて欲しかったが、車の特性上、後部座席への取り付けになるという。俺が仕方なく後部座席に行くと、本村がベルトを固定してくれた。 「本村の家族が普通に扱ってくれるのには感謝するけど、俺は元地下社会の人間でそれは変えられない。だから、誰の養子にもならないし、基本、一人で生きるつもり」  俺は、その理念で生きていたが、美紗江と出合い恋におちて結婚した。一生、家族を守るつもりでいたが、逆に守られる立場になったら捨てられてしまった。心のどこかで、家族とはそんなものだと、思ってしまったのかもしれない。もう二度と、家族なんて持つものかと叫びたくなる。 「俺も、一人で生きて死ぬと思って家を出たけどね……」  そういう孤独にしかなれない面を抱えていたので、俺と本村は友人でいたのかもしれない。どうしょうもない孤独と、相容れない社会に背を向けてきた。 「でも、夏目。俺も困っている友人を、見捨てられる程に鬼にもなれなかったかな……」  本村は上品で、育ちの良さを感じるのんびりとした動作であった。本村は、少し頭を傾げると、小さく訂正した。 「友人ではなく、親友だった……」  姿をみて、過去形にされてしまった。  それは、もう、昔の俺ではないということなのだろう。
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