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第四章 青空は満開の桜の上 四
本村の家は、マンションの最上階にあり、ヘリポートも完備していた。ちなみに、住んでいるだけではなく、このマンション自体が本村の持ち物であった。
俺と本村は、学生時代からの知り合いで、その後、同じ軍部の諜報部にいたが、今は刑事と公安に分かれている。そして、本村はキャリアで幹部候補でもあった。
「幹部候補で、刑事というのも変でしょう」
「まあ、俺、現場にいたかったしね……」
本村は荷物を運び込み、何かを組み立てしていた。何を組み立てているのかと横目で見ると、チャイルドシートはベビーカーにも変えられるらしい。本村は、その方法を練習していた。
マンションからは、上から桜見が出来る。正面にある公園には、古木の桜があって、今が満開になっていた。桜の下で酒を飲むと、美味さが倍増する。思わず酒を探していると、横に本村がきていた。
「花見がしたいの?夏目、花見が好きだったものね……」
本村はのんびりとした口調だが、かなりキレる頭脳と性格であった。
「酒が飲みたい」
「それは無理。俺も明日は仕事だし、夏目には酒を飲ませるなと、姉にも注意されているよ」
本村はやんわりと、俺からつまみの類を奪い取っていた。
「夏目、屋上に寝室を作った。そこからのほうが、よく桜が見えるよ」
本村は歩き出してから、戻ってくると俺を抱えた。でも、まるで鞄を持つように小脇に抱えた状態であった。
俺はラーメンが消化できなかったのか、揺れると吐きそうになる。口を押えて揺れに耐えていると、窒息しそうになっていた。
「……夏目、トイレで吐いてもいいよ。だからさ、この身体でラーメンはまだ無理だよね」
吐いてもいいとは嬉しいが、トイレに連れてゆき逆さまにするのは止めて欲しい。一応俺も生き物なので、逆さまにすれば中身が出てくるというものでもない。
「本村、普通に降ろして」
俺はトイレに降ろしてもらうと、便器にしがみついてよじ登った。何かにつかまれば、ある程度は歩けるので、少し移動するとラーメンを吐いてしまった。
「ゲホゲホゲホゲホ、ゲホホホ」
気管支に何かが詰まっていて、かなり苦しい。俺が床で咳をしていると、暫くしてから本村が俺の背を叩いた。
「姉に動画を見せて、アドバイスを貰った……」
本村は頭がキレるのに、どうでもいい事には反応しない。目の前で咳をしているのに、動画に撮って確認してからの行動らしい。
「まず、ラーメンを食べさせるなと怒られた。それから、ちゃんと支えて、背を叩いてみろとの事だ」
純花は動画で、抱っこの仕方などをジェスチャーしながら、怒っていた。
「俺は子供ではないよ。自分でできる!」
ハイハイでトイレから出ると、階段まで移動した。
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