第三章 青空は満開の桜の上 三

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第三章 青空は満開の桜の上 三

 相馬に連れ回されそうになっていると、本村がやってきて、俺を受け取ってくれた。 「本村、助かった。相馬部長は怖い!」 「あ、でも、俺はまだ仕事中だから、車で待っていてくれるかな……」  本村も忙しいので、外出して俺を受け取りにきてくれたらしい。 「ごめん、迷惑かけた」  素直に車で待っていよう。  助手席で待っているよりも、後部座席のほうが広くて快適だと思って移動し、眠ろうとしたが、車の中は結構暑い。飲み物を持ってくれば良かったと思ったが、何も持っていなかった。  車の座席の下で暑さを凌ごうとしたが、だんだん苦しくなってきてしまった。車のシートによじ登り、窓を叩いてみたが、駐車場には誰の姿も見えなかった。  子供というものが、こんなに体力が無いとは知らなかった。水分が不足しただけで、意識が遠のいてしまいそうだった。もう一度、窓を叩くかと立ち上がると、後に倒れてしまいそうになった。 「あ、落ちる!」  俺がバランスを取ろうとしていると、車のドアが開き、手が支えてくれた。俺は落ちずに済んで良かったと思いつつも、誰が支えたのかと相手を見た。それに、車の鍵は掛かっていたはずだが、どうやって開けたのか分からない。 「誰?」  俺は顔を見ても、自分を支えてくれた相手が誰なのか知らなかった。 「まず、水分でしょう。はい、飲んで」  コップで水が欲しかったが、哺乳瓶のようなもので口に突っ込まれてしまった。乳児ではないので、コップにして欲しい。俺は手が支えてくれてはいるが、立ったままであったので、再び転びそうになった。でも、必死にしがみついて立っていると、前の男が急に笑った。 「何がおかしい?」  真顔から急に笑うので、少し驚いてしまった。 「可愛い!!!!!本当に、可愛い!!!!相馬部長に言われた時は嘘だとしか思わなかったけど……こんなに可愛い生き物がいるのか!!!!!」  相馬部長と聞こえたので、公安の人間だろう。でも、俺には面識が無かった。 「誰?」 「俺は西園寺です。第九公安部の者なのですよ。新しい上司が、夏目さんと聞いて、がっかり半分、期待半分だったのですけど」  がっかりの部分は、西園寺は大の可愛いもの好きで問題を起こし、第九にとばされてきたということで、第九自体にがっかりしていたらしい。 「第九にはかわいいモノが全く無い!夏目さんも知っていましたが、かっこいい上司で可愛さはなかった!でも……」  じっと西園寺が俺を見ると、両手で抱えて頬や頭にキスしまくっていた。 「やめろ!!やめろって!!」 「これ、天使?羽付きの服を買ってもいいですか?真っ白で、でも目がビー玉みたいに澄んでいて、可愛い!!!!」  もしかして、西園寺が問題を起こしたというのは、子供にキスしまくったとかではないのか。西園寺は見た目が、ある意味普通の青年で、しかも、どちらかというとチャライ二枚目なのでギャップが凄い。 「西園寺!」 「はい!」  でも、俺が上司という自覚は、少しはあるらしい。 「キスはやめて」 「嫌です」  きっぱりと断られてしまい、俺ががっかりしていると、西園寺がキスをやめた。
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