951人が本棚に入れています
本棚に追加
/571ページ
第三章 青空は満開の桜の上 三
相馬に連れ回されそうになっていると、本村がやってきて、俺を受け取ってくれた。
「本村、助かった。相馬部長は怖い!」
「あ、でも、俺はまだ仕事中だから、車で待っていてくれるかな……」
本村も忙しいので、外出して俺を受け取りにきてくれたらしい。
「ごめん、迷惑かけた」
素直に車で待っていよう。
助手席で待っているよりも、後部座席のほうが広くて快適だと思って移動し、眠ろうとしたが、車の中は結構暑い。飲み物を持ってくれば良かったと思ったが、何も持っていなかった。
車の座席の下で暑さを凌ごうとしたが、だんだん苦しくなってきてしまった。車のシートによじ登り、窓を叩いてみたが、駐車場には誰の姿も見えなかった。
子供というものが、こんなに体力が無いとは知らなかった。水分が不足しただけで、意識が遠のいてしまいそうだった。もう一度、窓を叩くかと立ち上がると、後に倒れてしまいそうになった。
「あ、落ちる!」
俺がバランスを取ろうとしていると、車のドアが開き、手が支えてくれた。俺は落ちずに済んで良かったと思いつつも、誰が支えたのかと相手を見た。それに、車の鍵は掛かっていたはずだが、どうやって開けたのか分からない。
「誰?」
俺は顔を見ても、自分を支えてくれた相手が誰なのか知らなかった。
「まず、水分でしょう。はい、飲んで」
コップで水が欲しかったが、哺乳瓶のようなもので口に突っ込まれてしまった。乳児ではないので、コップにして欲しい。俺は手が支えてくれてはいるが、立ったままであったので、再び転びそうになった。でも、必死にしがみついて立っていると、前の男が急に笑った。
「何がおかしい?」
真顔から急に笑うので、少し驚いてしまった。
「可愛い!!!!!本当に、可愛い!!!!相馬部長に言われた時は嘘だとしか思わなかったけど……こんなに可愛い生き物がいるのか!!!!!」
相馬部長と聞こえたので、公安の人間だろう。でも、俺には面識が無かった。
「誰?」
「俺は西園寺です。第九公安部の者なのですよ。新しい上司が、夏目さんと聞いて、がっかり半分、期待半分だったのですけど」
がっかりの部分は、西園寺は大の可愛いもの好きで問題を起こし、第九にとばされてきたということで、第九自体にがっかりしていたらしい。
「第九にはかわいいモノが全く無い!夏目さんも知っていましたが、かっこいい上司で可愛さはなかった!でも……」
じっと西園寺が俺を見ると、両手で抱えて頬や頭にキスしまくっていた。
「やめろ!!やめろって!!」
「これ、天使?羽付きの服を買ってもいいですか?真っ白で、でも目がビー玉みたいに澄んでいて、可愛い!!!!」
もしかして、西園寺が問題を起こしたというのは、子供にキスしまくったとかではないのか。西園寺は見た目が、ある意味普通の青年で、しかも、どちらかというとチャライ二枚目なのでギャップが凄い。
「西園寺!」
「はい!」
でも、俺が上司という自覚は、少しはあるらしい。
「キスはやめて」
「嫌です」
きっぱりと断られてしまい、俺ががっかりしていると、西園寺がキスをやめた。
最初のコメントを投稿しよう!