緋色の過去 麻衣 カミングアウト

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緋色の過去 麻衣 カミングアウト

 目の前にいる人に焦点があっているようであっていなかった。 私は、それに気が付いた・・・。 真理子さんに、私の同性に関する感性や思いを相談してみたらどうだろう。 真剣な相談として、聞いてもらうのだ。真理子さんはそれを他言する様な 人ではない・・・。 真理子さんには申し訳ないが、私の心の中にゲーム感覚が芽生えた。 もしかして・・・「実は私もなのよ・・・」そんな話も引き出せたり。 親にも、友達にも相談できない事を聞いてもらう。 もし、真理子さんが完全な同性愛者であれば、かなり高度なアドバイス もしてもらえる。少し恥ずかしいけど・・・。 真理子さんが同級生だったら、この考えは浮かんでないと思う。 なんとなくそう感じていた・・・。  メールで相談したい事があるとの旨を伝えた。真理子さんは心配して 早い方がいいよねと、その週の土曜日に時間を作ってくれた。 「なんか、真剣な感じだったからさ・・・」 「お酒は抜きね・・・」 ファミレスで真理子さんに相談に乗ってもらう事になった。 私は、中学生の頃に芽生えた同性への感情・感性等を赤裸々に 告白した・・・。そして・・・。 「私は、自覚のない・・・同性愛者なのだろうか」と締めくくった。 真理子さんは、頷きながら真剣に話を聞いてくれた。 多少のゲーム感覚を抱いてこの場に来た事を反省した・・・。  「辛かったね・・・今まで苦しかったね・・・」そう言いながら 真理子さんは、目に涙を溜めていた。 その姿を見て、私も泣いてしまった。 「人目もあるからさ・・・もし、よければ私の部屋においでよ」 「二人で泣いてたら・・・変だもんね・・・」 ここから、年齢差20歳以上の女VS女の心の探り合いが展開する。 AVのビアン物語なら、部屋に招かれ・・・そのままアンアンと。 そんな展開であろう・・・。しかし、現実は全く違った。  真理子さんは部屋で語り始めた・・・。 「辛かった気持ち・・・理解出来るよ・・・」 来た!!ついに来た!!私は心で。そう叫んでいた。 ゾクゾクと悪寒に似た寒気が走り・・・頭の毛穴が全開に。 「私もそうだったのよ・・・」その言葉を期待していたからである。 その言葉を引き出す自信はあった・・・。  その期待は、大人の機転とアドリブで見事に打ち砕かれた・・・。 「実は、私の友達がね・・・麻衣ちゃんと同じ境遇なのよ・・・」 「その友達が、どの様に自身を受け入れて生きているか・・・」 「参考までに話すね・・・」 瞬時に真理子さんは、架空の友達を創り上げて自身をそこにスライドせた。 「なるほど・・・大人ってこんなやり方するんだ・・・」 「偶然にも、そんな都合の良い友達がいるわけないよ・・・」 「私・・・見抜いているから・・・」 そう言えず・・・また、こころでブツブツと呟いていた。  真理子さんに意地悪な質問をした・・・。 「その、真理子さんのお友達と・・・逢ってみたい・・・」 「逢って、直接話を聞いてみたいな・・・無理ですかね?」 当然、答えはNOである。 「その子にも・・・プライバシーがあるしね・・・」 「こんな話を、しなかったら・・・特に問題はないけれど・・・」 「話をしてしまった後では・・・無理ね・・・」 真理子さん、心の底から嘘をつけない人・・・。 視線を逸らせながら、上手くその場を切り抜けた。  この晩、真理子さんから一線を引かれたような気がした。 「ここから先には入ってこないでね!!」そんな線を引かれた気がした。 複雑な心境だった、もどかしさ、そして微妙な寂しさを感じていた。 時刻は午前1時を過ぎていた・・・。 「お腹空いたね・・・」最近、駅の傍にOPENした博多豚骨ラーメン。 2人はそのお店のカウンターに並んで座っていた。 「うん。濃厚・・・美味しい」と言いながら、備え付けの紅生姜を たっぷりと使い、乳白のスープをピンク色にして。 替え玉を注文する・・・そんな真理子さんの横顔を見ながら・・・。 「ごめんね、真理子さん・・・」 「今夜は、真理子さんが一番苦しくて、辛かったよね・・・」 「嘘をつかせてしまって・・・ごめんなさい」 「私の事を嫌いにならないでね・・・」そう心で、再度呟いた・・・。  この晩は、心の呟きが多い晩だった・・・。 そして、この後、真理子さんの嘘の真意が明らかになる日がくると この時点では、微塵も思う事は無かった・・・。
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