2173人が本棚に入れています
本棚に追加
/349ページ
うつつ2
ひかりがWEB小説を読んでいる最中に、スマホに着信があった。滅多にかかってこないのに、気になるところで邪魔が入った。登録していない番号だった。無視しようかとも思ったが、一応は出た。
「ひかり?」
幼なじみの喜多川亮の声だった。ひかり達の結婚が決まった頃から音信不通になっていた。
「日本に戻ってきたの?」
「さっき日本についたところ。携帯を契約したから試しにかけた」
関係がこじれる以前と同じ声色に、ひかりはホッとした。
亮は二人が結婚した直後、アメリカの研究所へ移った。向こうで同じ研究所のアメリカ人と結婚したと聞いていた。
会わなくなってからの亮がどうしていたのかひかりはほとんど知らずにいた。どう話しかけたら良いのかもわからない。
「久しぶりに桐野先生に会いたくって、連絡先を教えてくれないか」
亮だから大丈夫だと思い、知らせた。
「今忙しいからね」
「わかってる」
突然で驚きはしたが、懐かしい声が聞けてよかった。
「奥さん、一緒に来てるの?」
「奥さん? ああ、知ってたんだ。半年で別れた」
とっさには何も言えなかった。
「俺は自由にやってるよ。日本に帰りたくなったから帰ってきた。働き口も確保できた」
一時帰国ではないらしい。
「おばさんが心配してたぞ。全然帰ってこないって」
「うーん、なかなか子供もできないから、帰ると訊かれそうな気がして……」
「そっか」
亮は「夜、桐野先生に電話をかけてみる」と言った。
和明以外と、会話するのは久しぶりだった。音声でと言うのが正しい。ネット上では、文字で交流する友達が数人いる。
子供の頃の二人は、一緒に過ごして本当の兄妹のようだった。何年もあいていたのに、すぐに隙間を埋められたと感じていた。
和明に会いに来るなら、自分も会えるかもしれないとひかりは期待を抱いた。
声は変わっていなかった。しかし、見た目は大きく変わっているかもしれない。
いつ、京都に来るのだろうと気になった。
Web小説以外に、楽しみにすることができて嬉しかった。
亮は和明のことを尊敬していた。
だが、それはひかりが未婚のうちに妊娠したと知るまでの話だ。
ひかりが打ち明けた時、亮は躊躇うことも無く怒りを露わにした。許せないと言っていた。
それきり距離をおかれた。
ひかりは内容を知らないが、和明と亮は同じ分野の研究をしているはずだ。和明の連絡先を知らなかったところをみると、やはり疎遠にはなっているようだ。
最初のコメントを投稿しよう!