うつつ2

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 和明はひかりの人間関係には全く興味を持たないが、さすがに亮と幼なじみであることは知っているだろう。  今夜は話題ができた。和明と会話ができる。ひかりは、それが嬉しかった。  和明は、ひかりが話しかけさえすれれば無視しない。話も聞いている。頷いたり微笑んだりはある。しかし、ほぼ一方的なのだ。  よく考えると、話題がすぐにつきてしまう。もう少し亮に向こうでのことを聞いておけば良かったと後悔した。離婚したと言うから、聞きづらくなった。電話番号はわかるのだから、一度、ショートメールで話したいと伝えてみよう。  Web小説の続きは、気になる。しかし、ひかりの好みではなかった。  少々、品がない。  後から出てきた『奥村』は少し夫に容姿が近い気がする。『俺様』な感じも好ましい。気に入ったキャラと主人公が結ばれるなら良いけれど、他と近づいていくなら読まない方がいい。  しばらく様子をみることにしよう。  主人公のように、好きでもない男の前で下着を取るくらいだったら、職を失った方がましだ。  しかし、例えば、そうしなければ、和明にすてられるというような条件なら、してしまうかもしれない。 現実でそんな条件を突きつけられることはない。  小説は、通常では起こり得ないことでできていてこそ、価値があるのかもしれない。  ひかりは気が向いたので、他の作者の純愛短編を読んでみた。  幼なじみものだった。ひかりは、亮に対して恋愛感情がわいたことはない。亮も同じだと思う。これが現実だ。  和明が夜9時過ぎには帰ってきた。  珍しくうどんが食べたいと言われ、作った。  食事中に和明から亮の話題が出た。 「僕の大学で、講師をはじめると言っていた」 「そ、そうなんですか?」  春かららしい。 「来週家を探しに来るって連絡があってね」  こちらに住むなら、会う機会は持てそうだ。 「君たちは幼なじみだろう? 君が知り合いもいなくて寂しい思いをしているから、彼が来てくれて良かったよ」  和明がそんな風に気にかけてくれていると知って。ひかりは喜んだ。 「それでね、この家、部屋も余ってるから、ここに住んだらいいと喜多川君に言ったら、喜んでたよ」  ひかりは、一瞬にして思考停止に陥った。
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