ゆめ1

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   数日後、また先生に呼び出された。 「ああ、まず、誓約書にサインをしてもらおう」  先生から、クリップボードとペンを渡される。  一切の他言は許されないなど、印字されていた。 「期間は、内藤君がこちらに戻るまででよいかな? 君もいない間寂しいだろうし、ちょうどよいと思うがどうだろう」 「一年ほどですか」  先生が頷いた。 「長くても三年だろう」  承諾した。その間で先生に振り向いてもらいたい。 「誓約書の内容を破った場合、君と内藤君の、研究者としての道は断たれる。わかってるね」  内藤さんがどうなろうと知らないが、わたしは研究を続けたい。先生の側で。  先生は誓約書をしまうといって、わたしから見えない場所へいった。  鍵をあけたのが音でわかった。金属のすれる耳障りな音が聞こえた。  すぐに戻ってきた。 「まだ、奥村君が来ていない」  何が始まるか全然わからない。  奥村さんとは、わたしが一番苦手な奥村さんだろうか。  すぐにわたしを睨む。  背が高くてやせてて、眼鏡をかけてて、病人みたいに色が白い。 「奥村君には記録係を頼んである。まず、彼の検査を受けてもらうよ」  検査って……一体どんな?  不安が増す。  ノックがきこえた。奥村さんが来てしまった。 「お待たせしました」  低い声。気分まで暗くなる。 「早速始めてください」 「わかりました」  教授に言われ、いつも先生が座っている場所より奥へすすんだ。  本棚で見えない位置に、シングルベッドがあった。てっきり、そこにも本棚が立っているのかと思っていた。 「仮眠につかっているんだが、実験にちょうど良かった」  ベッドに、あがるように言われた。  奥村さんがベッドに近づいてくる。 「後で、奥村君から報告をお願いする」  教授は、奥村さんとわたしをその場に残して去って行った。  そんな。  先生とたくさん過ごせると思って、引き受けたのに。  奥村さんに名前を呼ばれた。  顔をあげると、見下すような視線と目が合う。 「引き受けるとは思わなかった」  口の端を片方だけひねりあげて、奥村さんが笑う。 「まあ、あの人を待たすとやっかいだから、さっさと下着を脱いで」  ここで、下着を脱ぐなんて、できるわけない。 頭の中でぐるぐると疑問符が回る。  わたしは微塵も動けない。  奥村さんの舌打ちが聞こえた。 「お前、出世のために引き受けたんだろう。今さらもたもたすると機嫌を損ねるぞ」  わたしは頭を横にふった。 「先生のお役にたちたかっただけで……」  本当は近づきたかっただけ。 「内容、知らないのか?」  ほとんど知らない。頷いた。  奥村さんは、ため息をついてから、しばらく黙っていた。 「内容を知らない方が、純粋な結果が得られるかもな」  鋭い目で見据えられる。 「研究者としての将来は何より大事だよな?」  何よりもと言われるとわからない。だけど、先生から嫌われるのは困る。 「ここでされることに、一切抵抗しないこと。俺からできるアドバイスはそれだけだ」  頷けない。 「まあいい。俺は俺の役目を果たす。さっさと脱げ」 「それはできません」 「そんなこともできないなら、実験からおりろ。俺から伝えとく」  それは困る。 「わかりました」   先生は一体、なんの実験をするつもり? 「向こうを向いてください」  奥村さんはだめだという。 「俺は記録係だ。計測器だと思うようにしろ」  思えるはずがない。
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