序章 Turn of the Seasons (winter→spring)

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序章 Turn of the Seasons (winter→spring)

「ねえあなた、お名前はなんていうの?」    すべてを温かく包み込むような陽だまりの中、一人の少女は中庭の芝生の上に座り、まだ一切の穢れを知らない、宝石のような瞳を輝かせながら見上げてそう尋ねた。 「ワタシの名前はツバキと、そう名付けられました」  尋ねられた方はそう名乗ると、ぎこちなく、でも何よりも大切なものを扱うような優しさでそっと手を差し出す。  まるでおとぎ話のワンシーンのような光景だ。物語の始まりか、終わりなのか。もしかしたらそのおとぎ話の世界には彼女たち二人しか存在していないのかもしれない。二人を取り巻くものすべてが色鮮やかに、その出会いを祝うように謳う。春の訪れを感じさせるその日差しは二人に慈愛に満ちた祝福を送り、花壇の花たちはやさしい風に乗ってその身を揺らす。  少女は差し出された手をとって立ち上がり、二,三歩跳ねるように後ろに下がると手を後ろに組み、体を揺らしながら無邪気な笑顔で口を開いた。 「私はね、未来っていうの。ねえツバキ、私たち友達になれるかしら」
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