Engage Ringー金曜日の決意ー

Engage Ring

　由香(ゆか)とは大学生の頃からもう六年付き合っている。お互い二十代後半を迎えて、周りの友人たちはだんだんと結婚し始めた。友人たちは誰もが僕たちの結婚も近いと思っているようだ。
　実際、由香はことあるごとに結婚の話を持ち出す。デートをしていても、必ず一回は結婚に話が及ぶ。だけど、僕はどうしても結婚に踏み切れずにいた。
　由香のことが嫌いだというわけではないし、愛情が薄れてしまったというわけでもない。ただ、結婚となると、本当にこのままで良いのかと躊躇ってしまう。

　由香は僕が初めて付き合った女性だ。つまり、僕は由香以外の女性と付き合ったことがない。もちろん、セックスも由香としかしたことがない。僕にとって女性との交際の全てが由香であり、セックスの全てが由香なのだ。
　だけど、どうしても時々考えてしまう。他の女性と付き合ってみたらどんなものだろうかと。そして、他の女性とセックスしてみたらどんなものだろうかと。
　それが、結婚を躊躇う理由の一つだ。

　結婚を躊躇うもう一つの理由は、僕には忘れられない人がいることだ。それは僕の初恋の相手、奈々(なな)だ。中学校の三年間、僕と奈々はずっと同じクラスだった。
　奈々は日本人形のような、整った顔立ちをしていた。くわえて、性格は明るく、誰とでも仲良くなれた。そんな彼女に心惹かれる男子生徒は数多くいたが、僕もそれに漏れなかったということだ。