先制するも戦車閃光

1/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

先制するも戦車閃光

旅人の高橋は、あてのない旅を始めるところだ。神保町の町内から今旅立つ。本の町として名高い神保町から旅立つなど、なんて贅沢なことだろう。 町内から歩いて行けるところまで行くのが高橋の目的だ。思うがままに歩く。気が向いた方向へ進む。ああ、なんというぜいたくな旅だろうか。ブラックコーヒーも冷めるほどのありふれた一人の人間の行動に、太陽も熱を隠せない。 しかし、旅とは過酷なものだ。必ずと言っていいほど、車からのぼる煙のようにご丁寧な邪魔が入ってくる。すなわち、見なかったことにしたいが無視できない。 高橋の元には富豪の山本がやってくる。太って態度がでかい富豪の山本はこう言った。 「旅人の高橋。お前はくそだ。何の目的もなく、ひたすら歩いてどこまでも行こうというその適当な姿勢。まったくくその役にも立たない。まだ俺の会社で働く社員奴隷のほうが社会貢献してると言える。お前は早く死んだほうがいい。生きてる価値がない」 ああ、富豪の山本はこんなひどいことを言うのだ。旅人に対してなんと失礼なのだろう。しかし、旅人の高橋は気にとめない。 「そうですね」 そう言って歩き続ける。まったく見慣れた腕時計のように無表情のまま歩き続けるのだ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!