序章

10/14
前へ
/483ページ
次へ
 朝にお屋敷を飛び出した私は午前中をスズカケノ池で過ごし、お昼ご飯目掛けてお祖父ちゃんの家に乱入した。  一応お屋敷にお祖父ちゃんの家に居ることを伝えると、電話に出た多門が後で迎えに行くと言ったけれど丁重に断った。  たぶん午前中のお役目が終われば玉彦が探しに来るはずで、その時に多門が先を越していると不機嫌になること請け合いだからだ。  それにしても、である。  今日はどことなくお祖父ちゃんも叔父さんも夏子さんも私に余所余所しい。  唯一お祖母ちゃんだけがいつも通りに、私にご飯を食え食えと勧めてくれる。  三人は私に余計なことを言わないようにしているようで、そうなると自然と口数が減るのは当然のことだ。  もしかしてもう私と玉彦の朝のいざこざが耳に届いているのだろうか。  お屋敷に居ない私を心配した誰かがお祖父ちゃんの家に連絡をして、事情を話してしまったのかもしれない。  午前中はスズカケノ池に居たので、十分にその時間はあった。  お祖父ちゃんは、正武家に嫁ぐ孫の私に、何があっても正武家様を立てること、我儘を言わないこと、言われたことには黙って従うこと、などを言い聞かせていた。  結局私は玉彦の、私は私のままで在れば良い、という言葉に甘えてお祖父ちゃんの言いつけは守っていない。  この五村で生まれ育ったお祖父ちゃんたちは、正武家の人間を敬い畏れている。  だから今日の様に玉彦とぶつかり合ったことを話せば、内容関係なく私が悪いと言われてしまう。  なので私はお祖父ちゃんに怒られるのが嫌で居心地が悪く、お祖父ちゃんたちは何か含むところがあって気まずそうだ。  今日は逃げ込む場所を間違えたかもしれない。  私はお昼ご飯をいただいて、早々に立ち去ることにしたのだった。
/483ページ

最初のコメントを投稿しよう!

926人が本棚に入れています
本棚に追加