序章

11/14
前へ
/483ページ
次へ
 柔らかな春の日差しを浴びつつ、私はお祖父ちゃんの家を出て道路を前に左右確認する。  見渡す限り車は走っていない。  畑に横付けされた軽トラが遠くに二台あるだけだ。  最近お祖父ちゃんの家と五百メートル離れたお隣の亜由美ちゃんの家の間に新築の家が一軒建った。  建てたのは澄彦さん。    住んでいるのは三月から鈴白村に引っ越してきた高田くん一家だ。  真由里さんの話によれば、社宅扱いで家賃は格安、そして正武家に十年勤めれば勤続十年の慰労品として頂けるという。そんな福利厚生がある正武家って絶対に変だと思う。  そんなことを考えつつ、私が左右確認したのは安全のためではない。  正武家へ帰るか、誰かの家にお邪魔するか。  最終手段で名もなき神社へ行くっていう手もあるけれど。  そこまで考えてがっくりと肩を落とす。  これじゃあまるで玉彦から逃げているみたいだ。  とにかく腹が立ってしょうがないけれど、彼と話し合わなくては事が進まない。  昨日の今頃は明日は玉彦と鈴白村を出て、温泉宿に向かっているだろうとほくそ笑んでいたのに。  重い足を左に向けて踏み出す。  話し合いになったら喧嘩腰になってしまう自分が容易に想像できた。
/483ページ

最初のコメントを投稿しよう!

934人が本棚に入れています
本棚に追加