序章

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 四月一日。  朝餉が終わり、当主の澄彦さんの座敷で三人揃って食後のお茶をいただいていたときに問題は起こった。  朝餉の席では本日の予定を互いに確認し合うことが行われる。  当主の澄彦さんと次代の玉彦はそれぞれの間でお役目に当たる。  別々の間でお役目を行うということは来客数が多いときなのだけど、今日は違う理由だった。  通常通りに当主の間で二人揃ってだとお役目は夕方前に終わる予定になる。  けれど今日は午後から私と玉彦が五村から近場の温泉宿で一泊することになっていたので、別々にお役目をこなして時間を前倒しする様に組まれていた。  結婚記念日にどこか旅行へ、と二人で年明けから計画を立てて結局は近場の温泉宿に落ち着いた。  遠くへ行こうかとも話をしていたのだけど、いざどこへとなれば二人とも思いつかなくて、そう言えば小さい頃玉彦のお母さんである月子さんに連れられて温泉へ行ったことがあるという玉彦の話から、そこに決定した。  そこは五村に隣接する小さな村の温泉宿だそうで、竹林に囲まれて寂れた雰囲気だけど、食事は美味しいし、個室には露天風呂があってゆっくりできるのだそうだ。  お陰で中々盛況らしく、年明けすぐに予約の電話をすると四月一日はあと一組しか受けられないと言われ、すぐに予約を入れた。  ぎりぎりセーフで間に合って、私も玉彦もホッと胸を撫で下ろし、この日が来るのを心待ちにしていた。  何といっても初めての二人だけの旅行である。    新婚旅行もしたけれど私の希望で五村巡りだったし、確かに二人きりだったけど見知った顔がそこここにあったので新鮮味が無かった。  でも今回は違う。  近いけど五村を離れて、前回は玉彦が勝手に計画を立てて結局は頓挫したけど、今回は二人で楽しく計画を練ってこの日を迎えたのだ。
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