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「さて。まずは涛川を潰すか。神落ちが接近しているが五村夜行が興っているから大人しくしていろと告げたのに、従わなかった罪には罰が必要だ。同時に提携も解除。運び込んだ荷物は外に投げ捨てろと松さんと梅さんに伝えたから遅れちゃったけど、間に合ってよかったよ」
きっと松梅コンビはここぞとばかりに離れから誰も居なくなった涛川一派の荷物を力いっぱい投げ捨てていることだろう。
そして那奈と高田くんが扱き使われていることが容易に想像できた。
「胸の呪は次代に祓わせる。いいね? ここで祓いを行うと夜行の者たちが吹き飛んでしまう」
真正面に正武家屋敷を見つめた私の肩に、澄彦さんの両手が後ろから乗せられた。
そして指先に僅かな力が加わり振り向けば澄彦さんは目を細めて、お屋敷の左手を見ている。
「どうやら比和子ちゃんが言う枯れ木女と……竜輝、あとは……陣の者、二人か。相対しているようだ。少し心許ないな」
澄彦さんは囁くように言って、いつの間にか黒駒に跨り、こちらの動静を見ていた多門に指先を動かして指示を出すと、多門と黒駒は大きく旋回してお屋敷へと駆けて行く。
有路市で竜輝くんが言っていた正武家家人と稀人の間にあるジェスチャーは当主次代共に共通の様である。
「飛ぶ狗って結構負担があるんだよなぁ」
清藤の狗から澄彦さんに式として新たに命を吹き込まれた黒駒の活動源は澄彦さんのお力に依存している。
現在澄彦さんは三百体の夜行のあやかしにお力を与え、黒駒を動かしていた。
それだけでもかなりなお力の消費なはずだけれど、独り言ちた澄彦さんはあまり苦にはしていない様に見える。
というか、本来ならばあやかしを祓うはずのお力を、彼らに分け与えると普通に祓われてしまうのではないかと思うんだけれど、どうやら私にはまだ知らない秘密があるようで、あやかしたちはなぜか元気いっぱいだ。
そんなことを考えていると、もう一度澄彦さんが両手を肩にポンッと置いて私の耳元に口を寄せる。
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