第十五章『正武家澄彦という男。』

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 小脇に私を抱えて飛んでいる太郎坊は一旦夜行の上で止まり、辺りを見渡す。 「なぁ……玉様のとこまで送り届けるっつっても、玉様、どこにいるんだ?」 「え、お屋敷じゃないの?」 「こんな状況で玉様とか稀人が大人しく屋敷に居るのか? 当主が出て来ているんだぞ?」 「確かに……」  現在私が把握できているのは、夜行を乗っ取った澄彦さんが下に、そしてお屋敷に向かった多門とその先に竜輝くんと陣一家の誰か二人と枯れ木女。  玉彦の元へと澄彦さんは言ったけれど、彼が今どこにいるのか言ってはいなかった気がする。  しかも澄彦さんがお役目で黒い着物を身に纏っていたということは、玉彦もそうである可能性が高い。  そうすると、鴉たちが松明で周辺を明るくしているとしても闇に紛れてどこにいるのか目で探すのは相当難しい。  いつもの白い着物であれば嫌でも浮かび上がって見えるのだろうけれど。  ここまで来たら、もう玉彦の方から私を見つけてもらうしかない。  澄彦さんが夜行に飛び入り参加したことをどこかで見ていて、私と太郎坊が外へ出たのも見ている、はずと思いたい。  そうなれば私がこれから向かう場所は一つだけだった。  追ってくるであろう神落ちを迎え討つ対策をしているお屋敷と、枯れ木女が入り込めない空間。  それは正武家屋敷の本殿である。  唯一懸念すべきなのは、神落ちは落ちても神格であることと枯れ木女が一体何者なのかってこと。  本殿は基本的に正武家の人間と巫女、神様しか立ち入ることが出来ない。  もし神落ちをお屋敷前で仕留められなかったら、枯れ木女が巫女だったなら。  私が本殿に逃げ込んでも対峙する可能性がある。  けれど最悪、本当に最悪の場合は本殿をあえて閉め切り、新たな神守の眼を発動させて蔵人を、眼に多大な負担が掛かってしまうかもしれないけれど水彦と九条さんも呼び出すしかない。  というか、神守の眼の選択肢って意味不明だから、またお父さんが出てくるかもしれない……。  私はそこまで考えて、思わず苦笑いをして漆黒の夜空を見上げる。  ま、とりあえずお家に帰ろう。  何とかなる。大丈夫。 「正武家屋敷へ!」  私がそう言って指差すと、太郎坊は承知と応え、背中の羽を大きく広げて羽ばたくと夜行の頂上から正武家屋敷の石段目掛けて滑空した。
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