第十五章『正武家澄彦という男。』

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 ほんの少しの間だけ思考した玉彦は、顔を上げたまま横目で私を見やって再び目を閉じる。 「問い質したいことは多々ある。が、この状況を鑑みれば言えぬこともあるのだろう。今はまず、場を鎮めることが先決である。まったく……南天!」 「ここに」  腕組みを解いた玉彦の足元にどこからか南天さんが現れて、黒鞘の太刀を彼の右手に差し出す。  しっかりと受け取った玉彦は鞘を抜き、太刀を片手だけで前に掲げる。  鞘だけ南天さんに戻り、私は玉彦に背中を押されて彼の隣に並ぶ。 「決して南天の側から離れてはならぬ。南天、比和子を護れ」 「承知いたしております。本殿へと向かいますか?」 「いや、この場に。私の目の届く範囲に」 「承知いたしました」  そう言った南天さんは私の肩を抱いて、表門の前まで下がる。  御無事で何よりです、と囁いた南天さんに竜輝くんがと言い掛けると、苦笑いして頷く。 「心配は無用です。多門のあと、父の宗祐も向かいました」 「大丈夫でしょうか……」  私に呪を刻んだ枯れ木女を相手にしているのだ。  絶対に一筋縄ではいかない状況になっているはずで、もし万が一誰かが犠牲になってしまうかもしれないと思っていると、南天さんは驚くような表情をする。 「大丈夫ですよ。稀人二人に元稀人が一人。それに陣の行平さんと雅さんがいらっしゃいます」 「でも……」  澄彦さんが心許ないと言って、多門まで向かわせたのだ。  それくらい枯れ木女が危険な存在なのだ。  私がそう訴えると、南天さんは口元に笑みを浮かべる。 「澄彦様も過保護な方ですから。それに三下の涛川に押される様な軟な鍛え方を息子にはしておりませんから」  言い切った南天さんは本当に心配していないようで、それでも心配と呟く私に、比和子さんも過保護になりましたねぇ、と目を細めた。
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