第十五章『正武家澄彦という男。』

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「まったく、最近の若い者ときたら……。豹馬も多門も高彬もまだ甘いところが」 「南天さん、もう御小言はその辺にしてあげて下さい」  背中にそっと両手の指先を添えれば、南天さんの肩から少しだけ力が抜ける。 「まぁ良いでしょう」  そう言った南天さんは右腕を肩の高さまで上げて指先で指示を出す。  すると豹馬くんと須藤くんがすぐに動き出し、高彬さんは少し考えた後に走り出す。  再び対峙した玉彦と神落ち、そして神落ちの左右に豹馬くんと須藤くんが展開して、高彬さんが夜行を背にして後方に回った。  彼ら四人の菱形の陣形の中に神落ちが囲まれた格好となる。  玉彦が太刀にべっとりと付着していた神落ちの血を強く振り払い構えれば、蒼白い炎が彼から立ち昇る。  次の一刀で決着が着くのだと私にでも理解できた。 「邪魔をするな! 正武家ぇぇぇっ!!」  甲高い女性の声に辺りを見渡すと、高彬さんが転がり出てきた林から、白装束の華子と恒継、そして数人のお付きが息を切らして現れた。  彼らも高彬さん同様に泥まみれになっており、山中で交戦していたことが窺える。  私が触れていた南天さんの背中が僅かに揺れて溜息を吐いたのが解かった。 「それは私たちの獲物だ! 手出しをするな!」  叫んだ華子が二人のお供を連れだって玉彦へと猛進する。  この時ばかりは恒継も妹に追随し、取り合えず二人は正武家という邪魔者を先に動けなくすることにしたようだ。  最初から神落ちを追うのを二人でしていればこんな事にはならなかったはずで、だったら最初から共闘すれば良かったのに、と思う。  跡継ぎ問題が絡んでいるからそうもいかなかったのだろうけれど、犠牲者が出る前にそうしなかったことが酷く腹立たしく思えた。  今だって結局は神落ちをどちらかが仕留めるために玉彦をどうにかしようとしている訳で、その後彼らはこの傷付いて背水の陣で挑んでくる神落ちをどうするつもりでいるのだろう。  万が一退治出来たとしても、涛川一派が五村から無事に出て行けるのかどうか疑問である。  正武家はともかく、五村のあやかしに手を出してしまったのだ。  大天狗や好戦的な猩猩が大人しく引き下がるとは到底思えないし、面白事好きな澄彦さんは絶対に涛川一派に手は貸さないだろう。  どっちかっていうとあやかし勢に加担しそう。  現在夜行を操っているくらいだし、おかしな友情をそこで育みだしていそうで怖い。  私が言えたことではないかもだけど。
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