第十五章『正武家澄彦という男。』

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 考え込む私の目の前では、神落ちと涛川の跡継ぎたちに対応する玉彦たちが駆け回る。  恒継はともかく、神落ちと華子とお供二人が厄介なようで、華子たちから放たれる黒い札を躱したり叩き落している豹馬くんが汗を拭う姿が目に入る。  一度でも黒い札に触れたなら、終わり。  私は玉彦の御札のお陰で枯れ木女の力と相殺されたけれど、その力が籠められた黒い札はどれだけの効力があるのだろう。  迂闊に触れてしまえば危険なものには違いない。  だから豹馬くんたちは躱して落とし続ける。華子の懐に札が無くなるその時まで。  玉彦に至っては触れてもへっちゃらなんだけれど、いかにも汚いものとして避けている様子が傍目にも解かってちょっとだけ笑ってしまった。  こんな時なのに笑える私って、頭がおかしい。  そう思ってまた笑ってしまう。  そんな私の様子に気が付いた南天さんがつられて口元を弛め、恒夫は笑い声を止めた。 「お二人さん、なん……」 「うはははははっ! 人間どもを蹴散らすぞ! それ、右だ! 左だ! 棍棒を振れ! 遠くへ飛ばした者には褒美を出すぞ! ふははははははっ!」  私たちの方へ一歩踏み出した恒夫は夜行から聞こえた澄彦さんの高笑いとその内容に、呆気に取られて夜空を見上げる。 「あっ! 馬鹿! そいつじゃないよ! それはうちの者だ! 間違えるな! そこのこけしと糸目、あと白い奴らだよ! 見れば分るだろう、空気を読め!」  澄彦さんに操られている巨大な夜行は漏斗状の足元を玉彦たちの主戦場に乗り込ませ、段々と逆三角形から瓢箪型へと形を変えて、夜行の回転に合わせて猩猩の棍棒やら天狗の錫杖、狐の尻尾などが飛び出して来て、最初のうちは修験者の白装束を身に纏っていた豹馬くんと須藤くんも襲われていたものの、澄彦さんの檄により狙いは神落ちを無視して涛川一派に絞られた。 「あのお人はいったい……」  呆然とした恒夫が思わず言葉を口から零し、私と南天さんはまぁ澄彦さんだから、と心の中で思った。
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