第十五章『正武家澄彦という男。』

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 宣呪言を詠い上げる玉彦を眺めつつ、私は背後にも気を配る。  玉彦の足元に無惨に横たわった神落ちはしばらくの間は足掻いて這ってでも逃げ出そうと片腕で頑張っていたけれど、須藤くんの錫杖が容赦なく土を掴んだ腕に突き立てられて腹這いのまま固定される。  起き上がろうとしても豹馬くんと高彬さんに足払いをされて儘ならない。  残酷な景色だけれど、この神落ちはそれ以上に残酷なことを全国各地で働いてきた。  人間やあやかしを傷付け喰らい、大きくなり。  分離しても有路市で片割れを仕留められたから被害は拡がらなかったものの、あの時二手に別れていたら、そして五村に辿り着いて二匹が結託したら手が付けられなくてもっと凄惨なことになっていただろう。  朗々と詠う玉彦の向こう側では、澄彦さんが操る夜行が何故か二回りほど大きくなっていた。  どうやら近くに居た長の夜行を吸収した様である。  さっきまで辺りに居た恒継や華子、付き人たちを夜行の周囲にいた天狗や鴉たちと一緒に追い立てて、石段を下って正面に開けている畑で追い駆けっこをしているのが何となく見えた。  やっぱり白い装束は夜には目立つ。  でも百鬼夜行って、合体出来るんだろうか……。  周囲にはまだ他の長たちの夜行があったはずだけれど、神落ちが正武家次代の前に引き摺り出されたことを確認して、自分たちの役割は終わったとして解散させたようだ。  その証拠にさっきまで生き物の気配がなかった石段脇の林から、たくさんの視線を感じる。  そして夜空に大型の鳥たちが羽ばたいているような音もする。  夜行が解散されて、神落ちの行く末を見定めようと五村のあやかしたちが見物に集まって来ているのだ。  夜行に参加していたのか例の子狐と子狸が、止せばいいのに四匹並んでお地蔵さんに変化して石段の丁度玉彦の真横に位置する絶好の場所で見物を決め込んでいる。  普段の玉彦だったらいの一番に追い払うけれど、今はそれどころではない。
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