序章

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 朝から機嫌が良かった私は、熱いお茶を湯呑みの中でゆるりと回しつつ笑みが零れていた。  なので、澄彦さんの本日の予定の次に玉彦が告げた予定に凍り付いた顔は満面の笑顔のままだった。 「本日は午後から人と会う予定があります。なので夜は屋敷にてその者たちと過ごす予定です」  衝撃的な言葉に私の理解が及ばず、澄彦さんに至っては二度見三度見していた。  だって、人と会う予定って。  今日は結婚記念日で、温泉宿に一泊の予定で。  何ヵ月も前から二人で楽しみにしていたはずなのに。  久しぶりに炸裂した玉彦の身勝手に私の湯呑みの持つ手が怒りで震える。 「た、玉彦。今日って何の日か忘れたの?」 「そうだぞ。今日はその為に役目を互いに振り分けたんじゃないか」  私と澄彦さんの言葉を聞き流す様に立った玉彦は、何も言わずにくるりと背中を向ける。  私は逃がすものかと着物の裾を掴む。  すると振り返った玉彦は何故かニコリと笑う。  悪びれもしないその笑顔に私は裾を掴んでいた手が離れた。  悪びれる以前に玉彦はきっと、悪いこと、常識外れなことを言ったつもりが無いのだと悟った。 「この者たちとの約束は旅行を決める以前に交わされたものだ。なので優先順位はこの者たちとの約束だ」  私は玉彦が言い終わると同時に立ち上がり、胸元を掴んで引き寄せると頭突きをかました。  久しぶりにかました頭突きはガツンと良い音を立てて、額を押さえた玉彦に片膝をつかせる。 「なっ、なにゆえ……」 「知るか! 馬鹿玉!」 私はそう言い残してプンスカして朝餉の座敷を後にしたのだった。  
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