第十六章『事の顛末 宴の始末』

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「何に反応して鳴っちゃってんの? 私、持ってないわよ」 「知っている。徐々に強まっている様に感じるが……」  鈴を左手に、私を右手に玉彦は導かれるように歩き出して、本殿の前までやってきた。  岩山に半分飲み込まれて佇む本殿の扉は、私たちを出迎えるように開かれている。 「絶対中に誰かいるわよ……」 「いるな……」 「ちょっと見てきてよ。その人が鈴を持ってる可能性高いわよ」 「俺が一人で?」  繋がれたままの手を持ち上げて口を尖らせた玉彦は、どうやら一人は嫌みたいだ。  まぁ玉彦一人だと神様だった場合視えないし、仕方ない。  二人で恐る恐る階段を上らずに中を覗き込むと、ぼんやりと白い影が見えた。  その頭もぼんやりと白く見えて、思わず私は思い当たる人物の名を呼ぶ。 「鈴彦」  呼ばれた白い影は本殿内からこちらへと歩きだし、扉の前で止まる。  どこをどう見ても白い着物のお役目着に、頭にいつもの狐面を乗っけた鈴彦だった。  もっと面倒なものを想像していた私たちはあからさまに安堵した表情をしていたようで、鈴彦は薄らと苦笑いする。  それがちょっとやっぱりご先祖様なので玉彦に似ていた。 「数日前に池に流れ込んできてな。渡してやろうと思っていたのだが面倒事に巻き込まれたくなく……」  鈴彦は気まずそうに顔を背けて、手にしていた青紐の鈴を私に差しだした。 「面倒事に巻き込まれたくないって……。まぁ気持ちは良く解かるわ。ありがとう、鈴彦」  草履を脱いで階段のところで両手を広げた私の両手に、鈴彦が青紐の鈴をしゃらりと落とす。  離れ離れになっていた身体の一部が戻ったかの様に手のひらの鈴は私の体温と同化する。  家出した時は手離してしまったけれど、その時以外はずっと青紐の鈴は私と一緒だった。  玉彦とスズカケノ池で鈴彦に貰った時から。
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