第十七章『蛇の眷属』

2/28
924人が本棚に入れています
本棚に追加
/483ページ
 夕餉を済ませた時刻。  玉彦と私、行平さんと高彬さんは、稀人を引退した宗祐さんの運転する車に乗って緑林村を目指していた。  先日百鬼夜行を興す際に、白蛇(はくだ)と交わした約束を果たすためである。  と言っても、私が白蛇と約束したのは『白蛇が陣さんと話をしたがっている』と伝えることだけで、その後、行平さんが応じるのか否かまでは責任は持てないとしていた。  神落ち討伐の夜、雅さんが母屋に運び込まれ、玉彦が祓いを行って一息ついた時に、私は行平さんと高彬さんに白蛇の件を伝えたのだった。  高彬さんは何のことだと首を傾げたけれど、行平さんは五村に足を踏み入れた時に覚悟していた様で、わかりました、とだけ答えた。  わかりました、の意味は幅広くて、会いますなのか、話はわかったけれど会いませんなのか私には判断できなかったけれど、翌朝、行平さんが玉彦と私に同席して欲しいと願い出てくれたので、会います、の意味だったんだろうとは思う。  でも、行平さんと高彬さんが一晩話し合って出した結論がそうだっただけで、場合によっては会わない意味だったのかもしれないと思ってみたり。 「そう言えば玉尾さんは来なかったの?」  後部座席の窓側に座る玉彦に話し掛けると、彼はちょっとだけ片眉を上げて答えた。 「別行動とした。色々と、な」 「ふーん」  てっきり玉尾さんも一緒だと思っていたけど、よくよく考えれば蛇を食べに来た玉尾さんを白蛇の屋敷に連れて行くのは喧嘩を売っているようなものだ。  それにしても双頭の蛇って何なんだろう。  白蛇は白い着物の青年で、頭は二つない。  これから訪れる白蛇の屋敷に双頭の蛇が居るのだろうか。  いや、それ以前に白蛇と双頭の蛇に関わり合いがあるのかどうかも解からない。  玉彦と私を挟んで反対側に座る高彬さんを覗き見る。  喪服の様に黒いスーツに黒いネクタイで、頭の上に纏めた金髪が嫌でも目立つ。  真剣な眼差しで進行方向の田舎の景色を睨み付け、私の視線には気付いていない。  昨晩行平さんと話合って、何を聞き、何を思ったのか。  白蛇の眷属ってどういうことなんだろう。  行平さんは昔、道彦に教えを乞い、蛇の力を抑え込む術を身に付けたらしい。  娘の雅さんは蛇の目を持っているようだし、息子の高彬さんは見た目には解からないけれど蛇に関する特異体質でも持っているのだろうか。  正武家の様にお力が受け継がれるのではなく、彼らは遺伝しているように思う。  一体緑林村の白蛇の屋敷には何があるのだろう。  私たちを乗せた車は夜の不気味な竹林を抜けて、緑林村へと進む。
/483ページ

最初のコメントを投稿しよう!