第十七章『蛇の眷属』

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 緑林村は林業が盛んな村で、五村界隈の山中の木々は緑林村の森林組合が管理している。  植林から伐採、炭焼きや漆の採取生産など、私では考えが及ばないものまで担っている。  最近ではキノコ栽培にも手を伸ばしているらしく、時折正武家のお膳に出されることもあった。  中には山道の管理などもあり、山中で白猿を追い掛けていた須藤家とは切っても切れない間柄だったそうで、須藤くんのお祖父さんは引退後は緑林村に終の棲家を持ったそうである。  白猿との禍根を詳しく知り、また須藤家がどれ程苦労していたのかを山中で見ていた彼らは、表立っては協力することが出来なかったけれど、事あるごとに助けになってくれていたのだと須藤くんが教えてくれた。  そして、玉彦のお母さん、月子さんも緑林村の出身である。  現在月子さんは村外で生活しているけれど、彼女の両親や妹夫婦は緑林村で暮らしており、やはり林業を営んでいた。  私も数回玉彦と共に訪ねたことがある。  一応玉彦のお祖父ちゃんになる月子さんのお父さんは、玉彦と私を前にするとカチンコチンに固まってしまって、孫に会っているというよりも正武家様に会っているというニュアンスの方が強かった。  それでもお酒が入れば敬語は消えて、ちょっと距離が縮まった感は出ていた。  ちなみにお婆ちゃんや月子さんの妹の陽子さんは全く遠慮が無く、玉彦をいじり倒していた。  逆に玉彦が親戚の洗礼を受けてたじろぐほどで、隣で見ていた私はちょっと楽しかった。  きっと私の両親や弟が生きていて、通山の実家に遊びに来たらこんな感じになっていたんだろうな、と想像できる。  そんな月子さんの実家の近くを通り過ぎ、車は再び山中に入り、竹林に囲まれた正武家の別邸に到着する。  正武家の別邸は鳴黒、藍染、赤石村にもあり、ここ緑林村にも当然の様にある。  別邸は正武家の当主や次代がお役目の際に鈴白村のお屋敷に帰られない場合に使用することになっていて、あまり訪れる頻度は高くないけれど、それでも毎日村の人がお手入れをしてくれているので、すぐに利用できるようになっていた。  澄彦さんが次代だった頃、よく家出をして隠れていたという話も南天さんから聞いたことがあった。
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