第十七章『蛇の眷属』

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 白蛇との約束の時間は二十二時で、一時間ほど早く到着した私たちは別邸で休むことになり、宗祐さんがあれこれとお茶や座布団を用意してくれる。  日中に青紐の鈴が見つかり、当初の予定なら豹馬くんが玉彦に随行するはずだったけれど、宗祐さんが自分がと名乗り出て、今に至る。  次代の玉彦が決めていたことに宗祐さんが進言することは珍しく、というか稀人は余程でない限り当主次代の決定には従うのだけれど、今回の一件は先代の道彦が深く関わっており、当時道彦の稀人を務めていた宗祐さんは事情をよく知る一人なので、玉彦はあえて自身の意志を通さず、宗祐さんを随行させることに決めた。  玉彦は白蛇からの頼まれごとを私が引き受けたと知った時点で、道彦の顛末記を読み返し、宗祐さんからも詳しく話を聞いた様である。  私はというと、玉彦が後から説明すると言った言葉を信じ、眼を癒す為に眠っていたのだけれど、結局別邸に到着しても話はまだ聞けずじまいだった。  だったら時間もある今、聞けばいいのだけど、何となく当事者の行平さんと高彬さんの前では話を切り出すことが出来なかった。  今回体調不良で同行できなかった雅さんは屋敷の母屋で香本さんとお留守番をしている。 「比和子」  宗祐さんに出されたお茶の湯気を見つめてどう話をしようかと考えていたら、玉彦が立ち上がり私を促す。  今夜の玉彦はお役目ではなくただの立ち合いだというので、白い着物ではなく、麻の紺無地の着物だった。  黒じゃなかったことに安堵したのは言うまでもない。 「なに?」 「こちらにも庭先に産土神の社がある」 「ん? あぁ、じゃあ挨拶しておこうか。宗祐さん、ちょっと庭に出ますね」  微笑んだ宗祐さんと行平さん、何故かずっと無言を貫く高彬さんを部屋に残し、玉彦と私は庭先の産土神の社へ向かった。  社は正武家屋敷の大社よりも小さく、どちらかというとお祖父ちゃんの家にある一般家庭の社の大きさに近い。  片膝をついた玉彦の隣にしゃがみ込み、私も手を合わせて祈る。  どうか今夜の謁見で何事も起きませんように。
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