第十七章『蛇の眷属』

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 中学生の行平さんは杣人だった父親に連れられて、将来自分が継ぐことになる家業の場である山々を廻っていた。  その最中、倒れた老木の前で呻き声が聞こえたのだけれど、父親は気にすることなく前を行く。  気になったものの、父親が足を止めないということは普通の人間には聞こえないものだと判断した行平さんは、助けを求める声が聞こえないフリをしてその場を立ち去った。  けれど帰宅し、夜になってお布団に入っても、どうしても声が耳に残っていて眠れない。  その声は自分と同年代の女の子の声だったから、ではなく、野太い男性の声だったそうだ。  翌日、学校から帰った行平さんは父親に内緒で山に入り、昨日の呻き声が聞こえた老木の近くまでくると、やっぱりまだ声が聞こえる。  辺りを捜索してしばらく、老木の下敷きになってしまった鈍くさい白蛇を発見した。  獲物を飲み込み、丸々とした身体で、老木が倒れた際に身体が重く逃げ遅れたことは明らかだった。  そして普通の蛇では無いことも明らかだった。  杣人の間で、山で白蛇を見たら神様だと思え、と言われていたし、何よりも呻き声を上げる蛇などいない。  あまり気乗りはしなかったものの、見捨てておくのも寝覚めが悪いので行平さんは白蛇を老木の下から助け出してあげた。  命からがら這い出した白蛇は行平さんにお礼を言う、ことも無く何度か頭を擡げて振り返りつつ山へと消えて行った。 「え、白蛇の声って男の人だったの?」 「うむ」 「てっきり助けた白蛇が鶴の恩返しみたく、行平さんに嫁入りするのかと思って聞いてたわよ」 「そうであれば話は簡単だったのだがな」  それからしばらくは何事もなく過ぎて行ったのだけれど、白蛇を助けてからちょうど一週間後。  緑林村の陣家の周囲に蜷局(とぐろ)を巻いた無数の蛇が現れ始めた。  人間が追い払おうと近寄れば逃げてはいくものの、すぐに戻ってきて家を監視する様に鎌首を擡げる。  一匹や二匹くらいなら放置しておくのが良いのだけれど、その数は日に日に増してゆき、緑林村の村長から正武家に尋常ではない数の蛇が村民の家を取り囲んでいると連絡が入った時には、数百匹に上っていた。 「……数百匹の蛇って想像したくないんだけど……」 「……そうだな」 「しかもなんだって集まってきちゃったのよ。行平さんは助けてあげたのに」 「蛇の仲間内で、色々と厄介な揉め事になっていたようだ」 「助けたことが?」 「それもあるが、霊媒体質の人間は珍しく、行平は蛇どもに目を付けられてしまったのだ」
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