第十七章『蛇の眷属』

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 当時の正武家当主である道彦が稀人である宗祐さんを伴って緑林村を訪れると、村長からの報告通り陣家の周囲には無数の蛇が(たむろ)しており、蛇たちは道彦が現れると蜘蛛の子を散らしたように逃げていく。  普通の蛇なら姿が見えただけでは逃げ出さない。  しかも一目散に全部の蛇がなど有り得ないことだ。  とりあえず原因がどこにあるのか突き止めようとした道彦は、そこで中学生の行平さんと出会った。  ごく普通のどこにでもいるような少年。  けれど。  少年の周囲には薄鼠色の靄が掛かり、一目で何かに魅入られてしまっていることがわかった。  幸いなことに少年には不可思議なものを感じる力があったお蔭で抵抗力があり影響はほとんどなく、日常生活は普通に送れていた。  しかし影響がないことが原因で、蛇たちが集まりより強い力で少年を(いざな)おうとしたことが今回の原因となってしまっていた。  道彦は行平さんから蛇の話を聞きだし、どこで魅入られてしまったのかは解かったものの、なぜ白蛇が行平さんに執着するのかまでは解からなかった。  ともかく家の周辺で蛇が出没するのは今のところ被害が無いとはいえ、これからどうなるかわからない。  そこで道彦は陣家の周囲に札を張り巡らせ、蛇たちがこれ以上近付けない様に対策を施して何か異変があれば正武家を訪ねるようにと言い置いて、緑林村を去った。 「え、去っちゃったの?」 「被害もない(ゆえ)、無用の争いを避けたのだろうな、道彦爺様は」 「えぇぇ。でも蛇が集まってたじゃん」 「比和子は雀が集まっても同じことが言えるのか?」 「雀は危険じゃないじゃないの」 「集団で襲い掛かって来てもか? 蛇は危害を加えてはいない」 「雀の集団に襲われるってどんな状況よ……」  そんなこんなで道彦に対策を施された家で行平さんは高校生まで普通に暮らしていた。  時折家の周囲で蛇を見かけることはあったものの、二、三匹程度だったのでよくあることだと気にもしなくなっていた。
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