第十七章『蛇の眷属』

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 高校生になった行平さんは美山高校へと進学し、青春を謳歌していた。  友達も増えて、勉強も頑張って、部活もしていただろうし、恋だってしたのだろう。  現在の行平さんはイケおじの部類に入る様なダンディだし、モテモテだったに違いない。  高校二年生の春。  行平さんは夜中に泥まみれになって正武家屋敷を訪れた。  当時はまだ稀人として九条さんも現役で、その夜は道彦と宗祐さんはお役目で五村を出払っていて、お屋敷にはまだ未成年の澄彦さんと九条さんが休んでいた。  裏門から転がり込んできた行平さんを何事かと松梅コンビが迎え入れて、九条さんが呼び出された。  駆け付けた九条さんが裏門で見たものは、駐車場を埋め尽くす漆黒の蛇の波だったそうである。 「うわぁ……」 「九条はそれ以来、鰻を食べられなくなったそうだ」 「蛇と鰻は違うでしょうよ……」  裏門に集結した蛇たちを一喝で蹴散らした九条さんは、行平さんを『視て』、そこで初めて道彦が初手で悪手を打ってしまったことを理解した。  道彦は少年だった行平さんの力は大人になるにつれて薄れていくものだと判断し、蛇も興味を失くして諦めるだろうと思っていたけれど、ところがどっこい。  行平さんの力は時が経つほどに強くなってしまっていた。  原因は家の周囲に張り巡らされた正武家のありがたい御札にあった。  御札の力に呼応するように、行平さんの力が引き出されてしまったのである。  今の私なら、すごく良く理解できる。  私も中学生の時には何も視えなかったし、感じなかった。  けれど玉彦と過ごす様になり、自身に流れる血が目覚めて、視えるようになってしまったのだ。  そして今回、そんな私に誘発されるように竜輝くんもまた御門森の力に目覚めた。  一つの強い力に眠っていた力が揺り起こされる現象は、五村において起こりやすいのかもしれない。 「でもどうして力が強くなったからって、蛇に追い掛けられちゃったのかしらねぇ……」 「行平はその夜、女生徒と逢引をしていたそうだ」 「あいびきぃ?」 「ふしだらなものではなく、近くの公園で話し込み、一人で帰宅する際に襲撃されたようだ」 「蛇の嫉妬? でも助けた白蛇は雄よね?」 「うむ。しかしその辺りの事情はこちら側からは解からぬ」 「しかも黒い蛇って、なんだかちょっと白い蛇と対照的だから敵対してる感じがするわね」 「なかなか鋭い」  玉彦は私の推理にニヤリと笑う。
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