序章

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 部屋に戻った私は、午前中のお役目には参加しないので旅行用に着替え等を纏めていたカバンを引っくり返して桐箪笥に仕舞い込んでいる。  玉彦があぁ言った以上、今日のお出掛けはない。  大人しく従う気はないし、納得もしていないけれど彼が自分で決めたことをそう簡単に翻さないのを知っているから。  すると数分遅れて額を赤くして戻って来た玉彦が、無言でお役目着の白い着物に着替える。  黙々と片付けをしていると、惣領の間へと導く役目の須藤くんの声掛けがあり、玉彦が襖の前でこちらを振り返った気配がした。  毎日惣領の間へ向かう前に、襖の前でハグをすることが日課になっていた。  今日も一日無事に過ごせますように、って。  でもさすがに今日はそんな気分にはならなかった。  微かに溜息が聞こえて、襖が開かれる。 「待たせた……」  須藤くんに言葉を掛ける気落ちした玉彦の声に振り返ると、心なしかしょんぼりとする背中が目に入る。  さすがにさっきのことは絶対に許せないけど!  でもこれからお仕事に向かう旦那様をこのまま送り出してはいけないということは分かる。  玉彦はたぶん、まだ頭突きの理由を解かっていない。  だったらどうしてこうなってしまったのか、話し合う必要がある。    喧嘩してでも話し合っていこうって私たちは決めていた。
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