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同属との再会
ピンポーン
「ん? 客か?」
ヒミカとアオイから裏切り者の存在を教えられてから数日後、マカの住むマンションに来客が訪れた。
インターホンには、意外な人物が名乗り出た。
『マカ、いる? 僕だよ』
「リウ!? ちょっと待ってろ」
マカは慌ててエレベータで一階に降り、玄関まで行った。
「アハハ、久し振りだね。でも何も降りてこなくても良かったのに。玄関だけ開けてもらえれば、一人でも上がれたよ」
「お前の場合、そうも行かないだろう? リウ」
マカがリウと呼ぶ少年は、車椅子に乗っていた。
彼は生まれ付き、下半身に障害を持ち、一度たりとも自分の両足で歩いたことはなかった。
マカのマンションはセキュリティはしっかりしているものの、障害者にはあまり優しくない設計だ。
マカはリウの後ろに回り、車椅子を押した。
「悪いねぇ。次期当主様にこんなことをやらせちゃって」
「悪態つくぐらいなら、来るな。そもそもお付きの者はどうした?」
リウは本家寄りの血筋な為、付き人が何人かいて、リウの身の回りの世話をしていた。
「今日は僕一人。マカに会いたくて」
「そりゃどうも。だが電話の一本ぐらい、入れてほしかったな。私が家にいなかったら、どうするつもりだった?」
「あっ、それは考えていなかった!」
本気で今気付いたという顔をしたリウ。
マカはため息をついてしまう。
今、リウは中学三年生。
本家の地元の中・高が続きの私立の学校に通っている為、受験はないものの、こちらへ来るほど暇ではなかったはずだ。
マカは車椅子を押しながら、エレベータに乗り、部屋に戻った。
「悪いが車椅子はここまでだ」
「分かってるよ。マカ、抱っこ」
「はいはい」
車椅子を玄関先に置いて、マカはリウをお姫さま抱っこして、リビングに入った。
ソファーにゆっくりと下ろす。
「オレンジジュースで良いか?」
「うん。お願い」
人懐っこく、表情がクルクルと回るリウは、愛されやすい存在だった。
マカも何となく、面倒を見てしまう。
リウの両足は、血族のモノがどんなに頑張っても治らなかった。
リウの両親は一人息子であるリウを溺愛しているものの、両足のことで多少は負い目もあるのだろう。
リウの言うがままに育て、多少ワガママになっている。
「しかし本当にどうしたんだ? 息抜きか?」
「う~ん…。まあそうだね。本家は息苦しくてさ」
リウは両足のことで、本家からは扱いに困られていた。
能力者としては、高い力を持っているものの、それでも大きなハンデを持っている。
それゆえに本来なら幹部候補となるのだが、今はまだ未定となっている。
そのことを現幹部の両親も困っているらしく、本家が息苦しく感じてもしょうがないことだった。
「…そうか。まあゆっくりしていくといい」
「泊まってもいい?」
「ご両親に連絡をすれば、な」
「ぶ~」
リウはふくれながら、オレンジジュースを飲んだ。
溺愛している両親は、簡単には宿泊を許してはくれないのだ。
「そういえば、マカはいつ本家に帰るの? そろそろお盆だから、早く戻って来た方がいいよ」
「…あと2・3日後には戻るさ。今はやることが山のようにあるからな」
「ああ、マカは受験生だもんね。宿題とかは?」
「受験生、だからそんなにはないんだ。まあ力を受験の方に入れろってことだな」
「難儀なものだね。まあ僕も中学受験ではちょっと苦労したけど」
リウは成績は優秀なものの、両足のことで、普通の学校には嫌がられていた。
だが障害者の学校に通うことを嫌がり、結果血族の者が経営する学校へと入ったのだ。
「苦労しているのは、お前のご両親だろう? 感謝は言っているのか?」
「まあ気が向いたら。マカこそ、そろそろ両親に会った方が良いんじゃないの? カノンさん、ちょっと悪化しているみたいだし」
「…そんなに噂になっているのか?」
思わずマカの顔が、複雑に歪む。
「嫌な噂ほど広がりやすいからね。まあちょっと、だよ」
リウも苦笑し、肩を竦めた。
「はあ…。まあ家に帰ったら、顔ぐらいは見せるさ」
「そうしなよ。カノンさんの一番の薬って、やっぱりマカだと思うよ?」
「逆に悪化しないと良いんだがな」
「アハハ」
リウは笑った後、不意に真面目な顔になった。
「あの…ね、マカ。もしかしたらもう聞いているかもしれないんだけど…」
「何だ?」
「ウチの同属に、裏切り者がいること」
リウの言葉に、マカは目を細めた。
「…そっちも噂になっているのか?」
「こっちも細々とは、ね。ただ、信憑性はこっちが強いみたい」
リウは目は笑わず、口元だけ笑って言った。
「僕が思うところでは、カズサのおじ様じゃないかと思う」
「カズサの…。確かにありえなくはないな」
カズサは古くからの幹部の血筋のモノだった。
彼は見た目は50過ぎの男性ながら、すでに300歳は過ぎている。
長く生きている彼は、かなりの頑固者として有名だった。
血と掟を何よりも重んじ、それゆえに敵が多かった。
「だがヤツがそんなことをするか? 確かに口うるさいヤツだが、それも全ては血族の為。反することはヤツにとっては、死をも意味するだろう」
「どうだろうね? 最近では僕やヒミカのようなハンデ付きの能力者が多く生まれることは、中途半端な結婚をしているせいだと言い触らしているみたいだし?」
「まぁだそんなことを言っているのか? まっ、ウチの両親の結婚も、ヤツに推し進められたようなもんだしな」
マカの実父、マサキには恋人がいたのにも関わらず、血の近さからカノンとの結婚を推し進められた。
おかげで厄介な家系図となっていることに、マカは頭を痛めていた。
「マカも苦労するよね。まあ昔ながらの幹部の考えなんだろうけど。今じゃ、彼の考えに賛同する者も少ない。そこで裏切りという道に走ったとしても、不思議じゃないと思うけど?」
「だが相手はあのマノンだぞ? とてもじゃないが、あのジジィが取り引き相手に選ぶとは思えん」
何よりも血と掟を重んじるからこそ、異形のモノと化したマノンと取り引きするとは思えない。
「でもただ力のみを言えば、マノンは強い方なんでしょう? その強さに惹かれたとか」
「う~ん…」
マカは頭を抱え込み、唸った。
「…まっ、とりあえず頭には入れとくさ」
「うん、そうしなよ」
「ところでお前は本当に泊まるのか?」
「うん、できれば」
真剣な表情で頷いたリウを見て、マカは深く息を吐いた。
「ならちょっと待ってろ。連絡してくる」
「あっ、してくれるんだ? ありがとー」
マカはケータイ電話を握り締め、リビングを出た。
そして数分後、リビングに戻ると、リウも電話をしていた。
「あっ、マカが戻ってきたから、切るね」
そう言ってすぐに切ってしまった。
「友達か?」
「うん、最近知り合ったんだけど、結構ウマが合ってね。よく話したりしてるんだ」
「ふぅん…。あっ、お前の両親には了解を得たから」
「やった♪ 流石は次期当主さま!」
「ついでにシヅキとルカが泊まるからな」
「えっ!? 何で?」
「お前をフロに入れるのに、男手がないとダメだろう?」
「ぶ~!」
「十五にもなって、ふくれるな! それにシヅキのメシは美味いぞ?」
「なら良いケド」
ケロッと表情を変えたリウに呆れながらも、マカは裏切り者のことで頭がいっぱいだった。
裏切り者は幹部にいる、という説は正しいだろう。
そして恐らくは、自分の考えも正しいことをマカは気付き始めていた。
それがどんなに残酷な結末になろうとも、裏切りは許してはいけない。
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