緋色の過去 麻衣 お誕生日会 2/3

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緋色の過去 麻衣 お誕生日会 2/3

 暗い部屋の中、計8本のキャンドルの炎が揺らいでいる・・・。 「おめでとう~」「ありがとう~」キャンドルが吹き消された。 全てはシュミレーションのとおりに進んでいた。 真理子さんにプレゼントを渡した・・・。真理子さんは泣いちゃった。 真理子さんは人一倍、感受性の強い女性なのだろう・・・。 知りあって約1年の間に、4回~5回真理子さんの涙を見た気がする。  良かった・・・誕生会を計画して本当に良かった。 「あああ!!失敗した」キャンドルを吹き消す時の写真を撮ってない。 もう一度火を灯し、電気を消した・・・。 「ちゃんと撮ってよ~」真理子さんの言葉を合図に。 改めて「おめでとう~」カシャ・・・カシャ・・・。  そして、電気を灯けようとソファーから立つ瞬間・・・。 私の身体を雷が突き抜けたような衝撃が走った。 真理子さんが、私の腕を引き寄せて・・・私を抱きしめた。 「このままでいいよ・・・少しこのままにしておいて・・・」 「落ち着いて私の話を聞いて欲しいの・・・」 真理子さんはガクガクと震えていた。そして、肩が震えながら 上下するほどに泣いていた・・・。 本来ならここで「来た~」とか「シャワーしておけば良かった」 なんて思うのかな・・・。でも、そんな余裕はなかった。 茫然自失・・・その状態だった。でも不思議だったな・・・。 脈は正常だった気がする・・・。 茫然自失とは、ハラハラ、ドキドキ等と云う状態を通り越した ある意味、卓越した場所に存在するのかもしれない・・・。 そうだしたら、私は瞬時にその場所まで飛ばされた。  「ごめんね・・・嘘ついてたのよ・・・」 「以前話した友達の事・・・あれ、私の事なの・・・」 「ある理由があって、もう女性を愛さないって決めていたの・・・」 「もう何年も・・・女性を愛していなかったわ・・・本当よ」 私も涙が溢れてきた・・・少しだけ感情が戻りつつあった。 それと同時に、涙が溢れてしまった・・・。 気が付くと、真理子さんの頬と私の頬が密着していた。 そこに二人の熱い涙がポロポロと滴り落ちる・・・。 涙で溶けだした、互いのファンデーションが粘着性を高めた。 頬が微かに離れる瞬間・・・糸を引く様な感覚が伝わった。  「私じゃダメかな・・・私じゃ麻衣ちゃんの心の隙間を 埋めることは出来ないかな??」 「ごめんね・・・突然こんな事を言いだして」 「でも、自分で何を言っているのかは理解しているつもりよ・・・」 ヒクヒクと真理子さんの身体が痙攣しているようだった。 それでもなお、過呼吸気味で泣きながら喋ろうとする真理子さん。 もう、発する言葉は、言葉になっていなかった・・・。 私は、生まれて初めて無意識に、素直に自分に正直な行動に出れた。 そんな真理子さんに力一杯抱きついた。 「真理子さんの事を大好きだったよ!!!」初めて口にした言葉だった。 次の瞬間、二人は更にきつく抱きあって、声を上げて泣いた。 もう、言葉など意味を持たない・・・。 ただ激しく、強く抱きあって泣いた・・・。 真理子さんが頭を撫ぜてくれたら、私は涙を両手で拭ってあげる・・・。 そして、互いの最大限の優しさを絞り出して・・・。 また抱きあう・・・。  どれ程の時間が経過しただろうか・・・。 「電気・・・点けますね・・・」私の小さなその声で 2人は、少しだけ正常な状態へと戻って行った・・・。 明るくなると・・・互いの顔を見れない程に恥かしかった。 この状況を打破しないと・・・。私が最初に大声を発した。 「ヤバイ!!!お寿司のネタが乾いてきてる!!!!」 「わ―――せっかく麻衣ちゃんが買ってくれたのに!!勿体無い」 「早く頂きましょう!!!」 互いが、考えている事は同じだった。おどけないと互いの目も見れない。 妙に不自然な、テンションの高い2人になっていた。 目を真っ赤に泣き腫らした二人が、やたらと高いテンションではしゃぐ 姿は、他人から見たら異様な光景だったかもしれない。  いつになくお酒の量も進んだ・・・。あの恥ずかしさからの逃避 もあったのだろう・・・。そして、午前2時・・・。 「あら、もうこんな時間・・・」「洗い物手伝うね・・・」 真理子さんが狭いキッチンで洗い物を手伝ってくれた。 そして、帰り際、玄関で真理子さんを見送った。 また、会話が途切れてきていた・・・。 「キスしていい??」真理子さんが優しい笑顔で聞いてきた。 私は、無言でうなずいた・・・。 私の女性とのファーストキスの場所、それは都会の雑踏の中にある 小さなアパートの一室・・・いいえ。その中の狭い玄関だった。  柔らかくて暖かい真理子さんの唇が私の唇に触れた・・・。 私は目を閉じたまま、それを受け入れた。 髪を撫ぜられ、真理子さんの舌がゆっくりと私の前歯をなぞる。 今考えればそれは「歯を食いしばらないで口をあけなさい」 そんなサインだったのだろう・・・。 一度、唇が離れた・・・「力を抜いて・・・」そう言われて また、真理子さんの舌が侵入してきた。私はゆっくりと顎の力を 抜いて・・・口を少し開けた。 舌と舌が触れた・・・真理子さんの「匂い」が微かに鼻に抜けていく。 「これが真理子さんの舌・・・そして匂いなんだ・・・」 そして、真理子さんは顔の傾きを左に変えた・・・。 「ふぅぅぅ・・・」と吐息を漏らした真理子さん・・・。    その後、舌の絡みと、上手く表現できないが吸われる力が強くなった。 真理子さんの鼻息が荒くなり、また時折、吐息を漏らしている。 舌は激しく絡み合う・・・。正確には私は口を半開きで顎を突き出し 舌を前に出しているだけ・・・。そこに真理子さんの舌が激しく絡んで きていた・・・。素敵だった・・・。 これが、キスなんだ・・・。真理子さんの両手は私の後頭部を押さえる。 そして、真理子さんの吐息が、小さな喘ぎへと変化してくる。 「凄い・・・凄く素敵!!」私は心で叫んだ。 顔の傾きを変える時、唇が一瞬離れた・・・糸を引いていた・・・。 後頭部の両手は、私の両頬に移動した。  一瞬見つめあった2人、真理子さんの目は虚ろだった。 そして、両頬を押さえられたまま、また激しいキス・・・。 真理子さんは喘いでいた「あぁぁぁ・・・」私の身体にも 変化が現れた、子宮で小さく早い脈を感じる・・・。 両膝に力を入れて突っ張らないと・・・その場に崩れ落ちそう・・・。 子宮から、骨盤を通じて頭の先へと何かが、何度も貫けていく・・・。 貫ける度に、今までに味わった事のない、新しいエクスタシーの 様な感覚が・・・。もう、頭はホワイトアウト寸前だった。 「ああ・・・骨盤の痺れが気持ちいい・・・」 溶けて無くなりそうな感覚が何度も身体を包み込む・・・。 そして、涙が止まらない・・・。  長い長い時間をかけた、優しく切なく、そして激しいキスが終わった。 ゆっくりと真理子さんの唇が離れていく・・・。 「素敵・・・可愛いわ・・・麻衣・・・」 真理子さんが初めて私を呼び捨てにしてくれた。嬉しい・・・。 真理子さんの呼吸が少し荒い・・・。 「これ以上ここにいたら・・・私、ダメになっちゃうわ・・・」 「帰るね・・・今日はありがう。嬉しかった・・・」 「ちゃんと戸締りしてね・・・物騒だから・・・」 そう言って、真理子さんは自らドアノブの上のドアロックを 開錠した。  ここで帰ってしまったら・・・。次に会った時に、今夜の事は 真理子さんの中で封印されているかもしれない・・・。何事も 無かった様に振る舞われる様な気がした・・・。  私は真理子さんに縋りついた・・・。真理子さんの手を引っ張り 懇願した・・・。「帰らないで、お願い・・・帰らないで!!」 「傍にいて下さい!!!」体裁、ブライドは既に飛んでいた・・・。 母親に泣いて食い下がる駄々っ子の様だった・・・。 中学生の時に、先輩女子に憧れを抱いてから、心に蓋をして 今まで閉じ込めていた様々な塊が、この瞬間に一気に吐き出された。 涙・・・そして鼻水をズルズルとすすりながら私は懇願した。  真理子さんは間をおいて・・・。 「後悔しない??私でいいのかな??」と冷静に整然と聞いてきた。 私は大きく無言で頷いた・・・。 一度履いたスニーカーを脱ぐために、真理子さんは前屈みになった。 そして、その身体が起き上がった時・・・。 優しい真理子さんの顔が、妖艶で淫靡な女の顔に変化していた・・・。 私は、寒気を伴う様な、そして、今までに感じたことのない様な 表現し難い、期待と殺気・・・そして、悦びの恐怖心を抱いた。
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