第一章、賢者との出会い

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「ええ、仏に身を捧げておりますので」 「なぁにが不殺生だ! 人間は他の生き物殺してナンボってもんだろ! 仏もヒデェこと決めやがったもんだ!」 混世魔王は矛を三蔵法師玄奘に振り下ろした。三蔵法師玄奘は死を覚悟した。ああ、このままこの長安の都の民に希望を与えることなく死ぬは無念。しかし、仏の教えを守り死ぬのも法師としては誉れ高いこと。自分の真白い袈裟が袈裟斬りになって真っ赤に染まるのだろうか。目を見開くと見窄らしいどこの国のものともしれない衣を纏った男が矛の刃を素手で受け止めながら拙僧を守っているではないか。三蔵法師玄奘は驚き腰を抜かした。 「貴様! 何をするつもりだ!」 混世魔王が怒りの声を上げる。万象はその声を無視して握っている矛の刃をぽいと払った。すると、混世魔王は矛ごと目の前にある巨大な塔の上階の壁に叩きつけられてしまった。 混世魔王は何がなんだか分からずに叩きつけられた塔の壁から二人を見下ろす。 「大丈夫ですか?」 「はい…… あなたは一体……」 「私は西京院万象…… 遣唐使…… いえ、今はただの風来坊です」 混世魔王が塔の壁からふわぁりと降りてきた。地面に降りるなりに演舞のように矛を振り回し始めた。 「貴様。何をやった!」 「魔王ですか? 一体どちらの?」 「我は混世魔王! 五万の妖怪を束ねる総大将であるぞ!」 「ああ、小物ですか。私はこちらの法師様とお話がしたいので黙ってて貰えますか? 人と話をしているときに強引に割り込むのは無礼と御母堂様に教育を受けてないのですか?」 万象が西の国にいた時には五万どころか百万の悪魔を束ねる魔王とすらも渡り合っていたためにこの程度の数を束ねていると言われても小物程度の扱いにしか思えなかった。 「うるさい! この混世魔王を小物扱いするとは無礼ではないか! 謝れ! 謝っても殺す!」 「たかだか五万の雑魚妖怪の首領と言うだけでぴいちくぱあちくと煩いですね」 この一言は混世魔王の逆鱗に触れた。混世魔王は問答不要と言わんばかりに矛を万象に振り下ろした。万象は真っ二つに分かたれた。 「ああ! なんと言うことを!」 三蔵法師玄奘は今命を失ったばかりの万象に対して念仏を唱えた。 「これからお前も同じ様に真っ二つにしてやるよ」 混世魔王は矛を構え直した。その構え直した矛の周りを人形(ひとがた)の紙がひらりひらりと舞い踊っていた。 「紙切れ……?」
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