第一章、賢者との出会い

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第一章、賢者との出会い

 根尾字音寺は長安の都の東方の池沿いの寺である。 万象は早速その寺の敷地内に足を踏み入れた。黄色の牡丹と紫の牡丹の甘い香り芳しい池沿いの道を歩いていると四角七層の巨大な塔が見えてきた。あの塔に「法師様」がお見えになるのだろうか。万象は塔の方に歩みを進めた。その瞬間、万象は邪気を感じた。歩みを走りに変えて塔の前にたどり着くと、白い布地に金襴の袈裟を纏った法師が長身の全身に黒い鎧を身に纏った矛持ちの男と対峙していた。 「三蔵法師玄奘よ。お前を旅に出すわけにはいかん! ここで朽ち果ててもらおう!」 矛持ちの男は矛を法師に突きつけた。法師は目を反らすことなく矛持ちの男を睨みつけている。法師は三蔵法師玄奘と言う名前のようだ。 「混世魔王。一体誰の差金でこんなことを」 矛持ちの男の名前は混世魔王。総勢五万の妖怪の総大将とされる大妖怪である。 「この長安を昔のようにされると面白くないお方としか言いようがねぇな」 「魔王ともあろうものがこんな生臭坊主一人殺すための尖兵とは。ヤキが回ったものですね」 混世魔王はそれを聞いた瞬間に歯を剥き出しにして怒りの表情を見せた。煽りに対する耐性は無い。つまり、短気であった。 「うるさい! 貴様の母親のように膾にしてくれるわ! 貴様も法力で俺を殺したいだろう! 不倶戴天の敵が目の前にいるのだからな!」 混世魔王は三蔵法師玄奘の母親の仇である。三蔵法師玄奘の母親が着ていた服が気に入り、それを手に入れるためだけに矛で膾切りにしたのだった。 三蔵法師玄奘にとっては不倶戴天の敵とも言える相手である。 三蔵法師玄奘は両手を合わせ目を閉じ拝みながら言った。 「仏に仕える私は人を恨むことはもちろん、殺すことすら許されません。殺されても殺すなと言う不殺生の信条を持っております」 「ケケケッ! 自分の母親を殺されて相手を恨まないなんておかしいんじゃねぇのか! そんなのは人じゃねぇよ!」 それを仇本人が言う。おかしな話である。
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