旅の終わりの森

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 ある大陸の西の果ての小さな町に、風変わりな学者が住んでいた。その名前はゼットンといった。彼は史学の研究で若くして大成し、都市で大学教授などの仕事をしていたが、都会暮らしが性に合わず、この町で気ままな生活を送っていた。  彼の日課は研究と執筆活動。大量の本に囲まれた部屋で作業に没頭することもあれば、何日間もフィールドワークに出かけたまま帰ってこないこともあった。彼は好奇心が強く、気になることがあれば、山の中だろうと川の中だろうとどこでも出かけた。その活動は自国だけにとどまらず、他国を旅して回ることもしばしばだった。  しかし、町の人々はそんな彼の活動を理解しなかった。その時代、大陸には様々な国があったが、それぞれを結ぶ交通網は発達しておらず、他国に行くためには荒野を何日間もかけて移動しなければならなかった。そして、そんな危険を冒すのは、優秀な冒険者か立派な警備をつけられる金持ち、もしくはよっぽどの変わり者だけだったのだ。 「なんで危険な目に遭ってまでも出かけるのかしら?」 「外のことなんて知らなくても十分暮らせるのに…」  近所の人からは白い目で見られることも少なくなかったが、彼はお構いなしだった。誰にも迷惑をかけているわけでもないし、ただ好きなことをしているだけなのだ。彼は自分のペースを崩さず、暇を見つけては他国へ研究旅行に出かける日々を送っていた。
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