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森の中は不気味なほどに静かだった。人間はおろか、生物の気配も全くしない。しかし、ゼットンは恐れることはなかった。どんなに凶暴な生き物が現れても対応できるだけの装備はあったし、危険な道や避けて通るべき場所の知識もミレイユから十分に教わっていた。
彼はひたすら歩き続けた。ただ聞こえるのは、風で揺れる木々の葉擦れの音と土を踏む自分の小さな足音のみ。進めば進むほどに、森は沈黙していくようだった。
「少し休憩しよう」
時間の感覚がなくなるほどに歩いた彼は、辺りの様子を確認した後、巨大な切り株の陰に腰を降ろした。こうしてゆっくりしていると本当に何の変哲もない森のように思える。気を抜いてはいけないが、この森には危険などないのではないかという気がしてならなかった。
ふと、前方にある低木の茂みを見つめていたゼットンは、おかしな光景を目にした。突然、何もない空間から、黒いローブを着た人間らしき者が現れたのである。その者は注意深く周囲を見回すと、速足でその場から去っていった。
ゼットンは身を隠しながらも、あっけにとられてしばらく動けなかった。今のは一体何だったんだろう。あの者の行先は気になるが、まずは彼が現れた場所を確認してみよう。ゼットンは立ち上がった。
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