百鬼佇む

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百鬼佇む

陽が落ちた橋のたもと、(もも)は欄干の擬宝珠に手を掛け道行く人々を目で追うておった。 陽が落ちたとはいえ、まだ空には陽の名残りがたゆたい、なりたて幽霊の百の姿をぼんやりと浮かべて見せておる。 材木問屋の次女として生を受けた百が、花もつぼみの十ばかりで出入りの材木商の荷車に積まれた材木の荷崩れに巻き込まれたのが半年も前じゃ。 未練が残って鬼と成るのも無理はなかろう。 稀に通りすがる人が百の姿に気付くが、この時代、触らぬ神になんとやらと、みな気付かぬふりして歩みを早めるだけじゃった。 たまに野良犬が近づいて歯を剥いてみせるが、百が裾を翻して蹴る素振りを見せると、鼻を鳴らしながら去っていく。
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