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百鬼耽る
「お嬢様!お嬢様!」
今際の際、百が覚えているのは三助の百を心配する声だけじゃった。
あの世へ旅立つ際にはそれまでの人生が走馬灯の様に思い出されると言うが、百はあんなのは嘘だと思うた。
思い出したのは三助との初対面。
初めて聞いた三助の声の柔らかさ。
すれ違った時の三助の絣の着物の乾いた匂い。
親の事よりも片恋の相手を考える百を叱ってはいけない。異性を意識し始めた十の娘の思う事は春の事と決まっておる。
神仏といえども変えられぬこの世の定めという物もあろう?
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