Trace

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 大賞でも取れば諸手を挙げ万歳出来たのにな、と思うけれど、入賞ぽっちじゃ何をどう喜びゃいいんだか中途半端でよく分からない。 「……どうせたまたまだよ」そうひねくれたって仕方ないだろう。虚しい野望を抱いて美しい絶望を掴んだような気分だ。 「素敵だったよ、あの話。賞とかもらってたりして。やっぱりすごいよ」  きっとハルカが俺の名前を目にしたこともほんのちょっとした偶然だ。いったいどこの『シュトウマナブ』を名乗っているわけでもないのに。『シュトウマナブ』なんて捜せばどこにでもあるような名前、そうであれば良いなという願望に過ぎなかっただろうに。  ハルカにどうしてそう思ったのか尋ねると、よく読む小説サイトで催される短編コンクールで懐かしい名前を見たのがきっかけだった、と。砂を掴んでガラスで手を切るような偶然だ。結局俺ら中学の頃はたまたま同じクラスで、隣の席が一度だけあった、たかがそれだけの関係じゃないか。すれ違っては消えていくよな――。  ハルカは何気なく「学君、ひょっとして中学の時からずっと小説とか書いているの?」なんて俺に尋ねる。まさか、なんて言って言葉を濁した。
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