桜ちゃん

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桜ちゃん

ホテルを出て、別棟の社員寮に案内された。 部屋は二人部屋と聞いていた。どんな子が同室なのだろう。 「こちらが亀田さんの部屋になります。――峰岸」 「はあい」 高い声がして、丸顔の女の子が顔を出した。 「新しい子だよね。お待ちしておりましたあ」 「亀田繭子です。よろしくお願いします」 「じゃあ亀ちゃんね。あたしは峰岸桜です。桜って呼んでね」 ぴょこんと頭をさげて、人懐こそうな笑顔を見せる。 バイトリーダーの彼は、つまらなそうにフンと鼻を鳴らして言った。 「では、亀田さんは、明朝五時半にはレストランに来るように」 その姿勢のいい後ろ姿を見送って、桜ちゃんが肩をすくめる。 「ジュリアンには要注意。あいつ、アンドロイドだから」 部屋は六畳ほどのフローリングで、二段ベットが置いてある。 折り畳み式のテーブルの上には、マスカラやビューラーなどの小物がバラバラと散らばっていた。 桜ちゃんは、それらをかき集めながら、 「ああ、部屋片付けなくてごめんね。ベッド上でいい?」 などと、話しかけてくる。 「あたしは一応学生なんだけどね、春休み中に稼ごうと思ってさ。 亀ちゃんも学生さん?」 「私は、えっと学生というか」 「フリーター?」 「……大学受験失敗しちゃって」 「あ、そうかあ」 部屋の空気が気まずくなる。 別に正直に話さなくてもよかったのかもしれない。
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