十日目

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十日目

「ねえ、このお魚、タイかしらね」 空いたお皿をさげていると、女性のお客様に声をかけられた。 「あ、えっと」 私は口ごもった。 「申し訳ございません。ただいま確認してまいります」 「まあ、自分とこで出してる料理も知らないの」 「……申し訳ございません」 「まあ、いいわ。水割ちょうだい」 「はいっ」 くるりと振り返ると、桜ちゃんとぶつかった。 「あっ……」 お皿が一枚、宙を舞った。 まるでスローモーションのように見える。 ガシャーンと派手な音がして、あっさりとお皿は割れた。 「すみません!」 すぐにジュリアンがすっ飛んできた。 「申し訳ございません。お召し物は大丈夫でしょうか」 「どうかしら……大丈夫そうだけど」 「本当に申しわけありませんでした」 「本当。気を付けてよね」 お皿のカケラを拾いながら、桜ちゃんのほうを見た。 桜ちゃんは、私から目をそらして、フイッと厨房の方に行ってしまった。 私は頭を殴られたような気がした。 「お姉さん、こっちにもビールちょうだいよ」 男性のお客様に声をかけられ、我に返った。 酔ったような赤い顔で、隣の席をポンポンとたたいている。 「ここに座ってお酌してよ」 「でも……」 「いいから」 うながされるまま、隣に座ってビールを注いだ。 お客様は、満足げにコップを開けて、 「お姉さんも飲んで」 と笑顔を見せる。
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